三十路になっても自動車免許を持ってないとか、結婚してないとか、人としてやるべきことを全然こなせていない非常に残念な人生を送っているボクではあるのだが、その中でもやり残した感が非常に高い項目が「テレクラ」だ。
テレクラ、正式名称・テレフォンクラブとは、もちろん電話が著しく好きな人たちが集うユカイな同好会……ということではない。
男子がお金を払うことにより電話を介して女子と会話することができ、さらには出会いやナンパをすることができるという、とってもアダルティなお店なのだ。
ボクが童貞臭全開の中学生だった1980年代後半、テレクラは全盛期を迎えていて、エロティックなマガジンには「テレクラ狂いのセックス依存症女を爆釣!」「テレクラで即面接、即ハメ!」といった見出しが躍り、テレクラでいかに女子を口説き落とすかという特集記事がバンバン組まれていた。
そんな雑誌を読んでは田舎住まい&童貞のボクはまだ見ぬ大人の世界への期待で胸と股間をパンパンにふくらませていたものだ。
以来、「大人になったらテレクラに行こう!」「行こう行こう明日行こう! 明日はテレクラのお店に行こう!」がボクの合い言葉だったのだが、なんだかんだで行きそびれている内にテレクラブームもすっかり過ぎ去ってしまい、「テレクラはもう終わったね」「サクラしかいない」などといわれる始末。
確かに、数年前だったら繁華街を歩けばしょっちゅうテレクラの看板を見かけたものだが、最近じゃずいぶんと減っているような気がする。こりゃあ、ホントに絶滅しちゃう前に行っておかねば!
……というワケで今回はテレクラに突撃!
ドキドキしながら必要以上にビカビカと輝く看板をくぐりテレクラの中へ。受付を済ませると、デブだったら引っかかっちゃうんじゃないかというくらい狭っ苦しい店内を、さらに狭?く区切った個室に通された。
約一畳強くらいの部屋の中は、まあ漫画喫茶の個室とそっくり。違っているのは、当然ながら電話が設置されていることと、ティッシュの箱がドーンと置かれていることくらいか。
とにかくあとは、男子との出会いを求める女子たちから電話がかかってくるのを待つばかり……。
することが明解すぎるテレクラの室内。
とは言え、今のテレクラってホントに廃れてるって聞くし、どうせ電話なんて全然かかってこないんだろうな……と思っていた。ところが、部屋に入って一分も経たないうちにプルルルーッとコール音が!
「電話かかってこい!」と念じていたのにも関わらず、いざかかってくると思いっきりビビッてしまううれし恥ずかし30代男子。
「まだ心の準備も出来てないし、なんか怖いし……今回のコールは見送ろうかな……」とコールを放置しておいたら、いつまで経っても鳴り止まないの……。ひーっ! なんか怖いっ! 仕方なく受話器を取ると。
「あのー、ワリキリで会いたいんですけど?」
はあ……、そっち系ですか。
その後も、電話が全然かかってこないどころか、ちょっとは休ませろというくらいガンガンかかってくるものの、そのほとんどが援助交際目当てなのだ。そうか、テレクラってそういうニーズで生き残ってたのね。
まあ別に、援交でもなんでも個人の勝手だとは思うけど、ボクがテレクラに求めてるのはそーいうんじゃないの。なんちゅうか、顔も見えない電話を通しての口説き口説かれみたいな……バチバチと火花の散るようなトークバトルを楽しみたいのよ!
……そんなことを思っていると、待望の援交目当て以外の電話が!
「テメー! なに昼間っからこんなところに電話してきてるんだよ! キメーんだよ!」
ひー、頭おかしい女キタ!
こういうトークバトルは求めてません!
そもそも、電話かけてきてるのはアンタでしょ。
—-はあ、スミマセン。
「アンタ、パソコン詳しい?」
—-は!?(なにそのジェットコースター展開)
「ウチのパソコン意味分かんないんだけど」
—-は、はあ……。多少は詳しいんで相談に乗りますよ。
「アタシ、マザーボードも全然使えないしさ(キーボードのことだと思う)」
—-あー、初心者だと難しいですよね。
「なんか電源入れるとジージー音がして……電波みたいな音がして……頭が、頭が痛くなるのよーっ!」
—-電波!? 電波って音するんですか?
「うるせーんだよ! お前が電波を出してるんだろ!」
神様スミマセン。トークバトルとかはやっぱり結構です。もう難しいことは言わないんで、シンプルに、ちょっとエッチな女子とお話出来れば満足ですので、なにとぞなにとぞ……。
「もしもーし、アタシ今なにしてると思う?」
—-……電話?
「そうじゃなくて……。もうアソコ、いじっちゃってるのよ。わ・か・る?」
こ、これはまさか!? 世間ではモケーレ・ムベンベ級の幻な未確認生物とされている”痴女”さんではないですか!?
まさかそんなファンタジックな生物が実在していたとは……! 脳内にAKB48のメジャーデビュー曲「会いたかった」が鳴り響く中、会話続行!
「ねえ、アタシのエッチな声、聞きたい?」
—-は、はい! 聞きたいであります!
「フフフ……もうおチン○ンカチカチなんでしょ」
—-ガッチガチでありますっ!
文字で書き起こすとホントに最悪な会話だが、ボクの軍隊コントばりに元気いっぱいの返答に気をよくしたのか、痴女の方もなんだかエキサイトしてきたようで、受話器の向こうから盛大なウッフン&アッハンのピンク・ボイスが。
うはーっ、桃源郷じゃ桃源郷じゃ! 受話器の穴から桃源郷エキスが漏れ出しておる!
そんなボイスに身をゆだね、文字通りアハ体験をしていると、突然受話器から別の人の声が聞こえてきたのだ。
(○○子?、今日の晩ご飯カレーでいい?)
「ちょ、ちょっと待ってて……。もう、今電話中なの! 夕飯なんてなんでもいいから!」
(じゃあカレーの材料買ってきてよ)
「だから今電話中だって……」
(まったくアンタはそうやって全然家の手伝いしないんだから……)
は、実家!? 実家の電話であんなことをしてたの!?
「あ、あの、買い物行かなくちゃならないんで……それじゃ(ガチャ)」
ボクはカレーよりもセックスアピールがないのか……。
あまりの予想外な展開に、電話が切れたあともしばらく虚空を見つめてボーッとしてしまいましたとさ。
いやーしかし、廃れているどころかいろいろな意味でスゴイことになっているぞ、テレクラ!
期待していたアダルティな出来事はまったく起こらなかったものの、普段だったら絶対にしゃべる機会のない、とてつもなくフシギな人たちとの会話はなかなかにエキサイティング。
もう一回くらい行っても……いいかなぁ。[日刊サイゾー]