今期の新ドラマのなかでも注目を集めているのが、本日22時よりスタートするドラマ『偽装の夫婦』(日本テレビ系)。
脚本が高視聴率を記録した『家政婦のミタ』『○○妻』の遊川和彦氏ということもあるが、沢村一樹がゲイ役を演じ、天海祐希と“偽装結婚”するという設定にも話題を呼んでいる。
たしかに、ゲイ疑惑のある芸能人が女性と結婚すると、そのたびに週刊誌やネット上では「偽装結婚では?」という見方が飛び交ってきた。ほんとうは男が好きなのに、世間体のために仕方なく女と結婚したのだ、と。
だが、実際はどうなのだろうか。じつは過去、同じように「偽装結婚」を疑われた有名人が、「偽装結婚ではない!」と反論したことがある。
その有名人とは、作家・エッセイストの中村うさぎ。1999年にスキャンダル雑誌「噂の真相」(2004年休刊)ホームページで本誌に掲載されなかった“ボツ一行情報”として
「中村うさぎ、結婚式をあげるも相手はゲイ。なぜか『偽装結婚』の噂」と報じられる。
この記事を読んだ中村が異を唱えたのは、「結婚相手がゲイ」ということでなく、「偽装結婚」と書かれたことだった。
「うちの夫がホモだろーがオカマだろーが、んなこたぁ、他人に何と言われようと屁でもない。それより、その記事を読んだ瞬間にムムッと思ったのは、「偽装結婚」という言葉に対してであった」
「世の中では、何をもって「ホントの結婚」と認定してるんだろーか?」
(『こんな私でよかったら……借金女王のビンボー日記3』角川文庫より)
そして中村は、翌年「週刊宝石」(光文社/2001年休刊)で「偽装結婚ではない!」と反論したのだ。
まず、中村は、夫の印象をこのように語っている。
「最初から全然私のタイプじゃなかった。恋愛対象としては、という意味ですが。外見もそうだし、性格にしても、恋愛感情が生まれる余地は一切なし。
なんというか、実にテンションの低い人で、ほあんとしてて優しいんだけど、ひどい優柔不断なヤツでして。こんな男と恋愛して、盛り上がるわけがない、と最初から分かっていました」
中村はその前にも一度結婚経験があるが、「いわゆる切った張ったの恋愛の修羅場、恋の泥沼劇場」となり離婚。
「もう、二度と結婚なんぞするもんか」と思ってきたという。
そもそも恋愛に対しては「どう考えても「パートナー」になりえない男しか好きになれな」かったらしく、「一度恋をしはじめると、完全にブレーキが壊れたバカ女状態と化し」てきた。
もう泥沼恋愛は疲れた、恋愛なんてゴメンだ──そんな気持ちでいたところに出会ったのが、結婚を決めた彼だった。
しかし、前述したように、中村には彼への恋愛感情はない。そして、セックスの関係もない。「でも、それがわが夫婦なんです」と中村はきっぱりと言う。
「セックスのない夫婦関係なんて、そんなもの耐えられるのか? って思われるかもしれないけど、だいたいにおいて私自身、元来それほどセックスってもんが好きじゃない。
若いときっていうのは、セックスすることイコール愛情だと思い込んでいたっていう部分があって、嫌っていうほど抱かれるなり、一生懸命にやってくれるなりされると、こっちも一生懸命それに応えましょう、みたいなことがすなわち「愛」であると」
だが、年を経るうちに義理や気遣いでセックスをしているのでは?と思うようになっていった。しかしそれも当然のこと。激情は持続せず、緩やかになっていくように「愛情の変質っていうのは不可避的なもの」だからだ。
ただ、そうして変質した「夫婦愛」が「家族愛」にすり替わったとき、中村はセックスができなくなると言う。この中村と同じような気持ちからセックスレス状態になっている夫婦は、意外と多いのではないかと思う。
そして、セックスがなくてもふたりでいることの心地よさがあればいい、と考えている人も多いだろう。
逆にいえば、セックスに縛られすぎなのではないか、という気もしてくる。だからこそ、中村はセックスのない夫婦関係を、こう表現する。
「私たち夫婦の話に戻せば、気を使ってお義理でセックスする苦痛もないわけで、いわばいきなり「家族愛」からスタートした夫婦っていう感じですよね。それがすごく、私にはしっくりくるというか、落ち着くんです」
セックスがなくても夫婦でいられる。いや、夫婦でいたい。その思いには何があるのか。
「夫婦もひとつのギブアンドテイクの関係だとすれば、私たち夫婦の場合、夫は私といることで経済生活をとりあえず保証されているわけで、普通ならその代価として家事を担ったり、セックスを与えたりというのが夫婦なんだろうけど、私の場合、彼から何を与えてもらっているんだろうと考えると、それは「目に見えない精神的な何か」としか言えないんですね」
目に見えない精神的な何か。中村はそれを求めてきたのかもしれない、と吐露する。
彼女がエッセイにしてきた自身の「買い物依存症」も、「目に見えない何かを手に入れたくてもかなわない鬱憤、ジレンマに対する代償行為」だったかもしれない、と。
夫はそんな彼女の買い物依存症も、「この人のキャラクターのひとつ」と理解してくれていると思う、と話す。
「私たちの間には男女の恋愛感情は存在しない。これは事実です。でも、これ不思議なんですけど、いままでの恋愛においては「私はこんなにあなたを愛してる。で、あなたはどうなの」って不安に常に苛まれてきたけど、いまはそれがなく、これまで感じたことのない大きな安心感と、もっと言えば、「絆」っていうものを強烈に感じているんですよ」
このインタビューで中村は、こんなふうにも語っていた。
「私、妙な自信があるんです。彼と私はそもそも恋愛関係がないから、いつかお互いに恋人ができる日が来るかもしれない。でも、そんなことで消滅してしまうような脆弱な関係じゃない、と」
実際、このあと中村は、ホストクラブ通いにハマったり、数十箇所におよぶ整形手術を繰り返したり、はたまたデリヘル嬢として風俗店で働いた体験録を発表するなど、破天荒さに磨きをかけていった。
そして2013年には、原因不明の病で生死を彷徨った。だが、闘病生活を送る中村の傍らには、懸命に彼女を支えようとする夫の姿があった。
その後も「もちろん性的関係は全然ない」(不良系情報サイト『WARUMON』でのインタビューより)という。……中村が感じた「絆」で、ふたりはいまも結ばれているようだ。
とかく世間は「結婚」や「愛」のかたちを「常識」の枠にとどめて考えようとする。しかし、愛する男女が夫婦となり子をなすのが自然、などというのは、古い国家主義の価値観でしかない。
家族愛を感じた相手と生活をともにする、それも夫婦のかたちなのだということを、中村は実践をもって示してきた。
『偽装の夫婦』も、中村のように、世間の「常識」を打ち破る、そんなドラマになってくれればいいのだが。
[引用/参照/全文:http://netallica.yahoo.co.jp/news/20151007-00010001-litera]