今、女性芸人の世界が揺れている。女性芸人といえば、当たり前のように「ブス」「デブ」「非モテ」をいじられ、そこで強烈なインパクトを残すことが成功への足がかりとされてきた。
しかし、持って生まれた容姿や未婚か既婚かどうかの社会属性などを「笑う」ことに対して、今世間は「NO」という意思表示をし始めている。
「個人としての感覚」と「テレビが求めるもの」、そして「社会の流れ」。3つの評価軸の中に揉まれながら、女性芸人たちは新たな「面白さ」を探し始めている 。
「やさぐれ」。辞書で調べると「家出人、宿無し。転じて、無気力でいい加減なこと。投げやりなこと」とある。
「やさぐれ」女キャラで今年ブレイクした納言の薄幸(すすきみゆき)。
ネタ上でタバコを吸い、街をディスり、「やっすい女」と自称する。私生活でのその豪快な飲みっぷりでも露出を増やしている彼女。
女の「やさぐれ」は芸人界においてどんな威力を発揮しているのか。彼女が「やさぐれ」にたどり着いた経緯を辿る。
『アメトーーク!』薄幸
男女コンビを組んだ理由は
――薄幸さんも出演されていた『アメトーーク!』の若手女芸人の回、すごく話題になりましたよね。そこでもテーマにあった「容姿いじり」問題ですが、幸さんはどんな風に考えていますか。
薄 そうですね。容姿いじりは有吉(弘行)さんにしかされないからあ(笑)。なので……経験があまりないのはありますけど、でも、男もブスいじりされてるから、別に女もされていいんじゃねえか、みたいに私は思いますけどね。
――確かに。女性だと、まず容姿いじりありきの感じになるのが問題なのかなと。ネタを見てほしいのに、そっちが先に来ちゃうとか。
薄 どうなんでしょう。でも、ぼる塾とかはあのフォルムだから面白かったりするわけですからね。そこを否定されると、本人たちがきついと思います。
――「お笑い第7世代」の男女コンビの活躍が著しいです。幸さんはどうして男女コンビを組んだのでしょうか?
薄 男女コンビを組みたいという気持ちは特になかったですね。前のコンビが女コンビで、一瞬ピンになって、全然調子よくなかったんですよ。
「もうやめてもいいかな」ぐらいの時に安部(紀克)に誘われたんで。で、勝手にネタも書いて送ってきたりしてたんで、「一回試しでやってやるか」ぐらいの気持ちで組みました。
別に半年ぐらいで解散してもいいかなとか思ってたんですけど、結構調子がよくてテレビにもすぐ出れたんで、ダラダラやってる感じですね(笑)。
納言
好きなタバコと酒がネタになる幸せ
――今ブレイクされてる「やさぐれキャラ」はいつ頃から確立されたんですか?
薄 (結成して)半年いかないぐらいでもうあの形にはなってました。最初は、当時風俗嬢のスカウトをすげえされてたんで、それがすごい嫌だみたいな話を安部としてて、それをネタにできないかなって。
その時に「鶯谷とか言ったほうが分かりやすいかな」というのと「1本タバコ吸ってからやるわ」と。そうしたら、こっち(タバコ)のほうがウケてたので。これを毎回入れよう、って感じでした。
――自分の好きなものを入れた(笑)。
薄 そうですね。タバコも酒ももともとメチャメチャ好きでしたし。それがネタになるなんてほんと幸せですよね。酒飲む仕事もそうですけど、金もらって酒飲めるなんて考えてもいなかったです。
――自分の素の部分を出したことで、「やさぐれ」キャラができあがったんですね。
薄 そうですね。女コンビの時はツッコミだったんですけど、あの頃からメチャメチャ口悪かったんで、そこまで変わってはない気もします。
薄幸の中にある「千葉っぽさ」
――幸さんはYouTubeでもよくお酒飲んでますが、酔っ払ってもどことなく品があるというか、あまり見ていて嫌な気持ちにならないのがすごいなと。
薄 それはまだ抑えてるからだと思います(笑)。プライベートは汚いですよ。ほんとに。
――カメラが回っているのが歯止めになってる。
薄 回ってるから……というか、仕事ってある程度のところで止めるじゃないですか。プライベートだったらもっと汚い。ベロッベロになりますし。記憶なくしますね。
――私は神奈川県の川崎出身で、自分の書くものにどこか「川崎っぽさ」を感じて少し嫌な気分になったりするんですけど(笑)。幸さんは千葉県の柏出身ですよね。ネタやキャラの中に「柏っぽさ」「千葉っぽさ」はあると感じますか?
薄 柏も汚いは汚いんですけどね、結構都会なんです。あと柏より松戸のほうが治安悪いですから(笑)。
そうだなぁ、でも、友達はみんなタバコ吸ってましたし、今、同級生は27~28ですがずっと変わってない感じなんですよね。飲み方とかも正直汚いし。まだ一気(飲み)とかするし。ノリが若いというか、ヤンキーっぽい感じはずっとある。
――飲むと中学時代の話ばっかりするみたいな。
薄 そうです、そうです。ずっと地元のツレとまだ付き合ってるみたいな。全然東京に出てきてない子たちばっかりなんで。千葉の人って地元大切にしますよね。それあるのかな……私の中にも。
――でも、そこで幸さんは東京に出ようと思ったわけですよね。
薄 お笑いを始めたのが17で、18になる前から一人暮らしをしてて、年上の人とばっかり仲良かったんですよ。だから地元の友だちみたいに若い時からはっちゃけてというのはなかったかもしれない。
――落ち着いていた。
薄 そうです、そうです。おじさんの「ビール2杯目は飲めない」みたいな話を20歳の時からずっと聞いてました(笑)。落ち着いちゃったんでしょうね。イェーイみたいなのは18の時点でなかったかもしれない。
当時の事務所の人に言われたこと……知られざる子役時代
――幸さんは芸人になる前に子役をやっていたと伺いました。そう考えると芸歴はめちゃめちゃ長い。
薄 まあでも、子役を芸歴に入れる芸人、マジでサブいなって思っちゃいます。
――(笑)。子役はご家族のすすめで始めたのですか?
薄 自分からです。自分が勝手に送って、勝手に行ってという感じです。親からは反対されてましたね。
――では芸人ではなく俳優になりたかった?
薄 そうです。でも私、才能がないみたいで。100人に1人、演技の才能がないまま生まれちゃう赤ちゃんが居るらしくて、その子はどうあがいても無理なんですって。「それが幸だよ」って、その時の事務所の人に言われました(笑)。
――それは……慰めですか?(笑)
薄 やめさせようと思ったんでしょうね。もうこの子は無理だって。私はそれ聞いて「100人に1人ってまあまあ多いな」と思いましたが(笑)。
子役をやってよかったことは…
――勝手なイメージですけど、幸さんはシャイな感じがして。子役時代、演じることは恥ずかしくなかったですか?
薄 今は恥ずかしいです。でもその時は全力でやってて、それでも何の役ももらえなかった。ずっと幸なんですよね。どんな役をやっても、そのまま私になっちゃう。でも、キムタクもそうですけどね。
――そこまでいくと「○○節」になりますね。
薄 そうなんです。ただ何せ幸なんで。キムタクだったらよかったんですけど。
――でも、子役時代ってそれこそ周りは年上の人ばっかりじゃないですか。
薄 そうですね。それで、子どもらしくなくなっちゃったっていうのはあると思います。
――子役時代に培われたものはありますか? 今の仕事をやるにあたって「子役やっててよかったな」ということは。
薄 挨拶とか礼儀とかは、芸人になってからのほうが全然厳しかったので、子役時代はあんまり。いまだに全然緊張もするし、演技もうまくないからコントもできない。売れてる人で子役時代仲良かった女優とかもいないですし。ゼロですね(笑)。
薄幸と尼神インターの渚
「やさぐれ」と「ヤンキー」の違い
――幸さんのあのキャラクターって「やさぐれ」だけど「ヤンキー」ではない。その違いってなんなのでしょう。
薄 自分から「こんにちは、やさぐれてます」とは言ったことないんです。勝手につけられただけで。だから私も何をもってそんなことを思われているのか分かってないですよ(笑)。まあ、ネタのイメージは分かるんですけど。
――ヤンキーってもうちょっとチャラいというか、それこそ「仲間」とか「絆」みたいなものを指向しますけど、でも、幸さんを見ていると、もうちょっと孤独なイメージがある。
薄 分かります。そうですね。ヤンキーって情がありますもんね。自分が映ってるのを客観的に見ると、薄情者に見えますもん。情がない。それに、ヤンキーよりは汚い店で飲んでいそうです(笑)。
――ヤンキーはどんな店で飲んでますか?
薄 音がガンガン鳴ってるところとかじゃないですか。うるさい、声が聞こえない。
――幸さんはもうちょっと大衆酒場みたいな感じの。
薄 そうですよね。あんまり客の居ない感じの。上野ら辺の。
――そう考えると「やさぐれ」って、すごくおじさん社会になじみやすいキャラなのかもしれないですね。実はとっつきづらさがないのかも。
薄 確かに圧倒的に男芸人の中で飲んでることが多いですね。それもおじさんたちと。まあ、(尼神インター)渚さんとかはメチャクチャ仲いいんですけど。
でも、ちゃんとかわいがってくれますよ。やっぱり女なんで。トム・ブラウンの布川さんとかゾフィーのサイトウさんとか、ほんとおじさんとばっか飲んでるんですけど。
――サイトウさんは居酒屋やられてますもんね。
薄 そうですね。「幸は頑張ってるよ」みたいなことをずっと言ってくれるんで。「そうですよね」って(笑)。おじさんたちは褒めてくれるので、メチャクチャ飲んでて楽しいです。
ゾフィーのサイトウが経営する居酒屋は「おいでや 川越店」「大西鮮魚店 町田店」「完全個室ダイニング 忍び庵」の3店舗
飲みに行くと相方がとにかく気を使わない
――年上の男性芸人と飲む時は気を使いますか?
薄 気は使いますね。安部も一緒に飲みに行ったりするんですけど、安部がとにかく気を使わないんで、ほんとにイライラしちゃうんですよね。だって、こんな近くにいる先輩が酒ないのに、自分の飲み物だけ頼んだりするんですよ。
――ちょっと想像できます(笑)。
薄 すごいんですよ。マジかよ、っていう。サシで飲みに行くなら全然いいんですけど、大勢の中で一緒にいるとすごい目についちゃいます。
――なんでそこ気づかないんだよ、みたいな。
薄 不思議でしょうがないんですよね。なんでなんですかね、あの人。飲みに行く機会が少ないのかな。私は養成所の先生にも礼儀でよく怒られてたりしたんで。安部はアナ学(東京アナウンス学院)だから怒られなかったのかもしれないですね。
体育会系だけど、後輩には怒らない
――ワタナベコメディスクールとの違い。
薄 そうですね。先輩にも「メールに絵文字使うな」とか、結構言われてきたんで。
――それは今も守ってますか?
薄 今も守ってます。ビックリマークぐらいですね。どれだけ仲良くても。
――メチャメチャ体育会系ですね。
薄 体育会系ですよ、ほんとに。でも、本当に酔ったらマジで関係なくなりますけど(笑)。
――例えばこういうテーブルがあったら、末席にまず座って、みたいなことからですか?
薄 はい。一番手前に座って、注文を取るのは自分。先輩のお酒がなくなったら「どうします?」とか。
――そういう点でちょっと気が利かない相方の安部さんを、うまいこと先輩につなげる役目も果たしているんですか。
薄 つなげないです、つなげない。さすがにこいつ失礼だなっていう時は、私が謝ったりはありますけど。あまりにヒヤッとするほど失礼なことを天然で言うんで。
――2人になった時に「あの発言はないよ」って幸さんが叱るんですか?
薄 それは言わないです。たぶん安部に言っても不貞腐れるだけなんで、あの人は。「そうですか?」みたいな。「別に誰々さん喜んでましたけどね」とか絶対言うのが分かるんで。
――後輩にはどうですか? 厳しいですか?
薄 後輩には全く言わないです。めんどくさいのもあります。めんどくさいんですよ、普通に。後輩に言うの。
――そういうところが、なんとなく感じる「孤独感」なのかもしれない。馴れ合わないというか。
薄 うれしいな。でも、すっごい芸人好きですよ。仲間はいっぱいいますけど。
相方の新しすぎる感覚
――同世代や後輩の方は、安部さんみたいなタイプが多いんですか?
薄 相方だから思うのかもしれないですけど、安部ほどひどいのはあんまりいないと思うんですよね。ちょくちょく「気が利かないな」っていう子はいますけど、安部は群を抜いて気が利かない。先輩がしゃべってる時、ちゃんとつまんなそうな顔するし(笑)。
――安部さんは以前、「童貞いじりの何が面白いのか分からない」ということを番組で話していて新しい感覚だなと思いました。
薄 ああ、なるほど。うーん……シンプルに嫌なだけだと思いますけどね、言われるのが。もう慣れたと思いますけど。
――その時は、それを笑いにされるのが納得いかなかったと。
薄 そんなことも言ってましたね、生意気に。
『納言』安部
「童貞いじりはOK、処女いじりはNG」なぜ?
――処女いじりはダメで、童貞いじりは誰にもとがめられないというのは、確かに変なことです。
薄 そうですね。処女いじりはちょっと笑えない。それは思います。言われてみればそうですね。なんでなんでしょう。でも、ポップですよね、童貞って。処女は生々しい。リアルなんですよね。
――いじってるときの罪の意識の有無でしょうか。
薄 そうだと思います。
[via:文春オンライン]
https://bunshun.jp/articles/-/41956
【Vol.2につづく】
ネットの反応
・インタビュアーの誘導を上手くかわしながら受け答えをしている、薄幸の頭の回転の早さが伝わる内容ですね。
・古くて新しい都会的なキャラのように感じる。昭和でも平成でも令和でもなんか街に馴染む感じの女性。
・長く活躍するかはわからんけど今の時代にマッチしてていいね。
・童貞弄りと処女弄りの違いは手軽に金で何とか出来るか否かってところじゃないの?
・大きな社会的意識の変化って絶対的かもしれないけれど、当事者と無関係な所で「正義」が独走しないでほしいと思う。たとえば、「差別を笑いの対象にすべきではない」ということで仕事がなくなり、当事者の生活に直接的な打撃を与えた小人症の人のプロレスとか…