「年上の芸人とばかり飲んでいる」という薄幸。彼女のキャラである「やさぐれ」と、献身的な「気遣い」は実は不可分であり、自分を下に置くことで、世間からの批判を好感度に変えてきた。
後編では、ネタや笑いに対して貪欲な一面、男女コンビの「女」がネタを書く意味に迫る。納言の漫才を完成させた、くりぃむしちゅー有田哲平の一言とは。納言・薄幸が考える「男女コンビ」という生き方。
【前編はコチラ】
徐々に相方がネタ作りから身を引いて
――今ネタを作っているのは幸さんですか?
薄 そうですね。最初は10・0で安部が書いてて、で、徐々に徐々に安部がネタから身を引いていき、気づいたら書いてなかった。
――書かなくなった理由はあるんですか?
薄 最初、安部が1人で考えてたのが「ちょっと私もやるわ」といって5・5になって、「今度は私が1本書いてくるから」となって、それぐらいからほとんど安部は書かなくなって、今は何もしない。
安部が1人で書いてたネタがシンプルに面白くなかったっていうのもあります。2人で書くようになってから今のスタイルになったんです。そこからバーンと調子よくなったので。
――安部さんが書いていたネタはどんな感じだったんですか。
薄 私がボケなのかツッコミなのかよく分からない、めっちゃ面白くない三四郎さんみたいな感じです。こっちがワーッてしゃべるんですけど、内容が面白くないんで。私がただやかましいだけという。
――安部さんはやっぱりセンスを見せたい人なんですね。
薄 ああ、そうですよ。それは完全にそうです。もう今はあきらめてくれたと思いますけど……ほんとにあきらめたと思います、今は。
納言
「こういう言い回しがしたい」っていうのが強い
――幸さんの中に「もっとこういうのが面白いのに」というフラストレーションがありましたか?
薄 ありましたね。こだわりというか、面白ワードを入れたかった。人が書いてくれたネタをやりたくないなっていうのもちょっとあったんですよね。言い回し……こういう言い回しがしたいっていうのがすごい強いんで。
――街ディスりもその一つ。
薄 そうですね。でもあんなにウケるとは思わなかったです。だって「鶯谷ションベンくせえ」は事実っていうか、単なる街の紹介じゃないですか。たぶんタバコ吸いながら言ってたからなんでしょうけど。こんなウケるんだって、ビックリしました。
――「赤羽の女は墓参りしない」と言われると、なぜか納得してしまう自分がいますね。
薄 最近はどんどん赤羽と蒲田ばっかりになってきちゃってて(笑)。一番言いやすい。きれいな街はやっぱり難しいんですよ。
――あれはどういう風に考えるんですか? 路線図を前にしてとか?
薄 路線図見ますね。でも、「下の句」って言うんですか。「赤羽は」が上の句なら「墓参りしない」の方を先に考えてます。そこに後から駅名を当てはめる感じです。ただ、営業のときはちゃんと調べてます。その街のことを。
――ちゃんとしてる。政治家みたい。
薄 政治家みたいですか(笑)。
男女コンビだったら女が書いたほうが強みが出る気がする
――今、男女コンビの女性のほうがネタを書くパターンが増えている気がします。
薄 そうですね。蛙亭とか。ラランドは一応2人で書いてるみたいですけど、まあ、あれはほぼサーヤでしょうね。
――それも「第7世代」っぽさでしょうか。
薄 そうですね。やっぱり男女コンビだったら女が書いたほうが強みが出る気がしますけどね。女の脳みそと男の脳みそは違うんで、せっかく男女でやってるんだったら、女が書いたほうがいいのかなと私は思ってます。
――なるほど。例えばどういうところが?
薄 女の偏見とかはたぶん女からしか出てこないと思う。この前のM-1予選でやったのだと「野球選手の奥さんは失礼な女しかいないだろ」みたいな。あれはたぶん安部には思いつかないというか。
「朝一番」㊧川口りえ㊨薄幸こと小泉みゆき(19)[2012年]
――それが、女性・女性コンビじゃなくて、女性・男性コンビだからこそ生かされるみたいなところは?
薄 どうなんだろう。でも、私たちの場合はピンでやってたら毒が強すぎちゃうと思う。ちゃんと安部に訂正を入れてもらえるので。R-1に出た時、漫談で同じようなことをしてたんですけど、やっぱりちょっと自分で言ってても怖いですもん。
――そこの感覚はきっと大事ですよね。街ディスりでも、その「これ以上言ったら怖い」ラインはすごく守ってらっしゃるのかなと思いました。
薄 最近安部は、私が街ディスりした後に「そんなことないよ」とかちょろっとツッコミを入れてくれるんですけど、最初は何もなくて。
普通に「赤羽は○○だな」の後に「すいません、お姉さん」ってスルーで入ってきたんですけど、それを有田さんが見て「あれは絶対ツッコまないと。幸が悪者に見えちゃうから」ってアドバイスをくれて、それでああいう形になりました。
――有田さん、すごいですね。
薄 有田さん、すごい。私気づきもしなかった。確かに変なこと言ってるのに、なんで何事もなかったように普通にコント入ってるんだって。とんでもないこと言ってるのに(笑)。
ほんと私たちにとって『有田ジェネレーション』に出られたのはすごく大きかったんですよ。初めてのレギュラーだったんですけど、すごい無理難題言われるんで。ほんとにサボれないというか。
あの番組はすっごい脳みそ使います。でも有田さんとしゃべれるし、有田さんの他の番組でも呼んでくれたりするんで。デカいですね、ほんとに。
納言『有田ジェネレーション』
「自分から負けてるよ、それは」有田さんのアドバイス
――有田さんのアドバイスで、他に印象に残っているものはありますか。
薄 打ち上げとかではそんなにしゃべれないんですよね。でも、安部が一回めちゃくちゃ怒られたことありました。
『有ジェネ』でラップバトルみたいなのがあるんですけど、その時に安部が「なんだその髪型。変だな」って攻撃されたんですよ。安部の髪がちょっと長い時期に。それで安部が「金属バットの友保さんにあこがれてやってるんだよ」みたいなことを言ったんです。
その打ち上げで「っていうことは、金属バットよりお前らは下って自分で言ってることになるからな」って。「ちゃんと対等で戦わないといけないのに、自分で負けてるよ、それは」みたいなことを有田さんに言われて。
――野球部の監督みたいだ……。
薄 そう。1時間ぐらい怒られて(笑)。
――安部さん、それは響いた感じはありました?
薄 響いてました。でも、有田さんがトイレ行った瞬間、めっちゃビール頼んでたんで(笑)。
――「今のうちに頼んどこう」(笑)。
薄 今のうちに(笑)。でもさすがの安部も怒られてる時は我慢してましたし、反省はしていました。すぐ髪切ってたし。
――有田さんってテレビではそういう部分、後輩たちへの献身的な部分は絶対出さないじゃないですか。
薄 そうですね。どこにそんな時間あるのかっていうぐらいテレビ番組全部見てるんです、有田さん。だから、『有ジェネ』は違う番組でオンエアされちゃったネタはやれないんですよね。有田さんが知ってるとがっかりしちゃうと思って。
――なるほど。
薄 そうなんですよ。それもちょっと大変ですけど。YouTubeまで見てやがるから(笑)。困るんですけどね、ほんとに。
――それは納言さんに目をかけてくれてるからじゃないんですか。
薄 いや、私たちじゃなくても、基本バラエティーを、お笑いを全部見てます。
『アメトーーク!』出演後に増えたツイッターDM
――インタビュー冒頭の『アメトーーク!』に出た時に、幸さん「本当は胸が大きいんだけど(胸が大きいと)キャラがブレるから大きいサイズの服を着てる」と話されていました。芸人としてはそういう部分は見せたくないですか。
薄 そうですね。漫才中に「胸でかっ」てなると、絶対笑えないなって思う。安部は何も感じてないと思うけど。でも、あれを番組で言った後、気持ち悪い人がいっぱい増えました。「幸とヤりたい」みたいなこと言ってくる。
『アメトーーク!』薄幸
――最悪ですね。ツイッターのDMとか?
薄 そうです。「飲みに行けますか?」とか「今どこどこに居ます」みたいな。「どこどこの何々で飲んでます」みたいな。
――すごいな……本当に勘違いするんですね。
薄 そう。すごいですよね。バカですよね、ほんとに。性器の写真とか送られてくるし。
――ひどい。
薄 それで興奮すると思うのか。「納言・幸、爆乳だった」って、たまたま私の胸あたりが映った画像を貼り付けて送ってきたり。
――それに対して怒ったりすれば「芸人だから笑いで返せよ」とか言われそうじゃないですか。
薄 「スルーが一番いいんだよな」と思いながら、でもやっぱり嫌ですよ。
「付き合ってないの?」男女コンビへの“野暮な質問”
――男女コンビだと「付き合ってるのか」みたいなことをすぐ言われるっていうのもYouTubeでおっしゃってましたね。
薄 ああ、言われます。野暮な質問(笑)。「付き合ってる」とか「付き合え」とか「付き合えばいいのに」とか。
――願望なんでしょうか。
薄 そうですね。ファンの人の願望。
――今、男・男コンビでも、ワチャワチャしててほしいみたいな、そういう願望ありますもんね。
薄 なんでなんでしょうね、あれ。コンビ仲いいとうれしいのか。勝手にBL風なイラスト描いてたりしますもんね。ブームなんでしょうけど。
――もしかしたらその延長かもしれないですね。安部さんと付き合って欲しいと思うのも。
薄 そうですね。でも、男女コンビってファンが絶対つきにくい気がするんですよね。見方が分からないですもんね。女ファンも男ファンも。近くに性別の違う人がいるから。だからすげえ人気ないなって思います、私たち。
――男女コンビというフォーマット自体がファンを減らしているところもあると?
薄 そうですね。減らしてる気がしますけどね。ゆにばーすさんも面白いけど、たぶん人気はないと思うし。蛙亭もそんな気がする。
――キャーって言われる感じはないかもしれない。
薄 キャーはないですよね。本当にお笑いが好きな人しか来ない。ほんとに私たちが出るライブもスカスカだし。主催者は喜んで「納言が出ます」みたいに書いてくれるんですけど、全然(笑)。申し訳ない。
女芸人にはおじさんファンがいるもんですけど、やっぱり男女コンビは別みたいで。でもちゃんとしたお笑いファンが見にきてくれるということでもあって、勉強になりますね。
15秒じゃキャラも出せねえよ
――ネタ上のキャラに、自分の私生活まで脅かされる怖さみたいなものはありますか?
薄 コレ、昨日もそうだったんですけど、仕事で歌舞伎町歩いてたら、いかついジジイがバーッと来て、「おい、納言の人じゃん」みたいな。で、普通に返してたら「キャラ全然違えな。面白くねえな!」って吐き捨ててどっか行きました。
――何を求めてやってきたのよ……という。
薄 一回肩パンされたこともあります。クリスマスに渋谷歩いてたら知らんカップルに「渋谷はどんな街ですか?」って聞かれて「クリスマスに渋谷選ぶカップル、すぐ別れるな」みたいなことを言ったら、男のほうに「ウィ~」って肩パンされました。そういうの、すっげえ嫌ですね。
――あるんですね、そういうの。
薄 ありますね。普通に声かけていただける分にはありがたいんですけど。
――視聴者が芸人に対して、テレビの中でのことをプライベートでも求めてくるのは、昭和平成の時代と変わってないのかもしれないですね。
薄 そこ成長してないですね、ほんとに。「キャラ違うじゃん」とか、なんで15秒ぐらいしゃべっただけで分かるんだよ、っていう。15秒じゃキャラも出せねえよ、と思いながら(笑)。
「ただ笑っときゃいいんだよ」って思う
――本当の「薄幸」はどんな人ですか。
薄 自分ではテレビだから作ってるってところはないと思うんですけどね。でも、ちゃんとあいさつできるし。「あいさつできるんだ。ほんとはいい子じゃん」とかよく言われるんですけど、いやいや、あいさつはするでしょ、っていう(笑)。普通ですよ。社会人なんで。
――この特集のインタビューでモリマンのモリ夫さんが、テレビの中の自分のキャラクターを私生活まで引っ張られるストレスがすごかったと話されてました。テレビのいじりを一般の人がしてくるストレス。
薄 ああ、それはそうですね。昨日の件で、今日からメガネかけて歩こうと思いましたもん。
――お1人だったんですか?
薄 その時は1人でコンビニ行ってたんですよ。
――女性だから……というのもあるかもしれないですね。
薄 なめられてるんですよね、きっと。女だから言っていいと思ってるのかもしれない。
――私は今日初めてお会いして、お酒毎日飲まれて、仕事でも飲んでいるのに、全然むくみが出てないし肌もきれいですごいなと思ってました。
薄 肌きれいなんですよ。何もしなくても割と大丈夫で。でもやっぱり年齢とともに太りますし、それこそビールも1杯でお腹いっぱいになっちゃうようになったし。
――「かわいい」とか「きれい」とか言われることに対してはどうですか?
薄 ああ、でもバカにされてるんだなと思います。きれいなファンの女の人に「かわいい」とか言われるのは、ブルドッグをかわいいって言ってるのとあれ同じ感覚なので。
――容姿のことをわざわざ言わんでいいわ、みたいな感じ。
薄 そうですね。ただ笑っときゃいいんだよって思いますけど。
[via:文春オンライン]
https://bunshun.jp/articles/-/41957
ネットの反応
・この気怠い感じがいいね、最近は居ないかんじの人だ。
・疲れてるオッサンみたいだw
・あえて媚びない方をひた走る姿は見ていて応援したいです。
・前に有吉ベースで見た時は、今より痩せててキャピキャピした女子って印象だったけどな。でも細いのにやたら腹が出てたのは酒のせいだったのかなと納得
・なかなかタバコを吸いながら話す姿は今となっては貴重だし、新鮮かも。禁煙肘のクレームなんか知ったこっちゃないと思ってるだろし、そこがまたキャラ。
・女であることを強調して語っておきながら、一方で女芸人は「笑いをフラットな目で見てもらえない」と嘆く
・性格がどうとかは置いておいてジャニ勉で初めて観て、猫背で臭そうという印象しか残らなかった。ヤニ臭、酒の息・・電車で隣に座られたらイヤだなって思った(笑)
・お母さんの誕生日に手料理を振る舞うのが毎年恒例など優しい優しいみゆきさん。って言うと営業妨害かな?