「芸能人は歯が命」と言われたのは何年前でしょうか。
現代は歯は白いことが当たり前となっていますが、江戸時代では既婚女性の歯は真っ黒でした。
いわゆる「お歯黒」というやつです。
テレビや映画の時代劇では「髷(まげ)」は見るのに、なぜか「お歯黒」は見かけません。
「お歯黒はどうして始まり、どうして流行したのでしょうか?」
■諸説あるが、古くは卑弥呼の時代から
いつからお歯黒が始まったのか―。
「その歴史は古く、紀元前3世紀ごろ 古墳内の人骨にお歯黒の形跡が見られた。
お歯黒をした埴輪(はにわ)も見つかった。
さらに7世紀 聖徳太子にもお歯黒の習慣がありました。
そして8世紀 古事記 第15代応神天皇の歌にお歯黒が歌われています。
平安時代になって、貴族女子の成人の儀式として定着しました」
紀元前3世紀にすでに存在していたとすれば、魏志倭人伝において、卑弥呼が中国の魏へ使者を送ったとされている頃ですね。
その後、この習慣は平安時代に成人の儀式として貴族・皇族に定着し、江戸時代に広く一般庶民に普及していったようです。
そして明治政府の近代化政策によりお歯黒禁止令が出され、千年近く続いたこの習慣は徐々にその姿を消していくことになります。
■歯を真っ黒にした理由
私たちの感覚では、歯が黒いのは違和感がありますが…。
「これによって当時は既婚、未婚を見分けたと言われています。
初めてお歯黒をつける時は、鉄漿付け(かねつけ)という儀式を行いました」
日本審美歯科協会のサイトによると、戦国時代は10歳にも満たない子にお歯黒をつけて成人と見なして政略結婚をしたり、江戸時代には女性のお歯黒が夫に対する貞節の印として、既婚女性を表すようになったとか。
黒色は何色にも染まらない色という意味も。
島根県歯科医師会のサイトでも、武士の間で心変わりしないという忠節を表し、平敦盛や豊臣秀吉もお歯黒をしたと説明されています。
「お歯黒をきちんとつけるには、歯垢を取り除かなければならず、お歯黒の成分にも虫歯を防ぐものが含まれていた」
日本歯科医師会をはじめとしたサイトでも、お歯黒の材料が、歯質を強化する作用があると説明されています。
現代のように欧米の歯科技術が入ってくる前から我々は昔から受け継がれた風習で歯科予防をしていたのですね。
「平安時代に書かれた堤中納言物語にある短編「虫愛づる姫君」では、姫が鉄漿(お歯黒)も付けないので気持ち悪いと評されたりしています。
お年寄りから『若いときに、チラリと見えた鉄漿(お歯黒)に、人妻の色気を感じてドキリとした』というような談話を聞いたこともあります」
と、当時はなかなか色気のあるものだったようです。
確かに「ちょんまげ」も異様な髪型ではありますが、見慣れると格好良く見えてきますからね。
現代でも「オハグロ」ならぬ「ガングロ」ブームがありましたし、お歯黒アイドル(!?)が出てくれば、私たちも意外とあっさり受け入れられ……さすがにないか。
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