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ドラマに描かれる偏った東京に食傷気味...虚実入り混じる奇怪作『山田孝之の東京都北区赤羽』

フジテレビの『問題のあるレストラン』(木曜午後10時)は良く出来たドラマだと思う。さすがは当代屈指の名脚本家・坂元裕二さんが書いている作品だ。真木よう子や安田顕らの演技も見応えがある。ただし、一点だけ疑問がある。なぜ、舞台が裏原宿なのだろう?

問題のあるレストラン

この作品に限らず、ドラマの舞台は渋谷区、港区に集中している。ほかの地域が選ばれることもあるが、せいぜい中央区、目黒区、世田谷区、千代田区あたり。

たとえば、堀北真希が看護師役で主演するTBSの『まっしろ』(火曜午後10時)の舞台は、超セレブたち御用達の「東王病院」であり、おそらく港区内をイメージしているのだろう。同区赤坂に実在する「山王病院」を彷彿させる。

田中麗奈が主演する同じくTBSの『美しき罠~残花繚乱~』(木曜午後9時)にもセレブな男女やお洒落な街並みばかりが登場し、渋谷区と港区、銀座のある中央区の臭いが充満している。

ドラマに登場する東京は、まるで修学旅行における自由行動での行き先か、はたまた地方から上京した直後の若者が憧れる場所ばかり。お上りさんチックだ。もう少し東京の下町や深部を描いても良い気がする。

ドラマの登場人物たちが葛飾区立石のスナック街を飲み歩くことはないし、墨田区錦糸町や大田区蒲田の路地裏が描かれることもない。カップルが台東区の浅草ビューホテルや豊島区池袋のメトロポリタンホテルでデートをすることもない。どうやらドラマ界から黙殺されているらしい。

画面の中の東京人たちは大半がお洒落とされる街で暮らし、流行のファッションを身にまとい、きれいな職場で働く。あまりにも画一的だし、東京への誤解や偏見すら招いているのではないだろうか。

『若者たち2014』(フジ)は下町を舞台として、貧乏な5人のきょうだいを描こうとした。その意欲には惹かれたが、無理が随所に見受けられた。

妻夫木聡と瑛太の二人は自宅近所の公園で派手な大乱闘を繰り広げたが、それで通報されない場所は下町でも思い浮かばない。申し訳ないが、架空の下町にしか見えなかった。

5人の貧乏ぶりにもリアリティーを感じなかった。生産年齢の若者が5人も一つ屋根の下に居ながら、いくらなんでも扇風機暮らしは考えにくい。

若者たち2014

テレビの黄金時代とも呼ばれる70年代は違った。故・向田邦子さんが脚本を書いたホームドラマの傑作『寺内貫太郎一家』(1974年、TBS)は、台東区谷中の人々を鮮やかに点描した。本当の谷中を知らない人にも「これが東京の下町というものであろう」と思わせた。登場人物たちが、ほどよく泥臭かった。

石立鉄男コメディーの代表作『水もれ甲介』(同年、日本テレビ)の舞台は豊島区雑司が谷で、やはり下町情緒に満ちていた。過去を単純に美化するつもりはないが、今のドラマは東京の下町やそこで暮らす人々をないがしろにし過ぎているのではないか。

そんな風潮に挑戦するようなドラマが、テレビ東京の『山田孝之の東京都北区赤羽』(金曜深夜0時52分)である。もしかすると、ドラマと呼べないかもしれない。フェイクドキュメンタリー、あるいはメタフィクションのようにも映る。得体の知れない奇怪な番組だ。

主演は山田孝之で、実名で登場する。映画の撮影で煮詰まった山田が、『ウヒョッ!東京都北区赤羽』(漫画アクション連載中)というノンフィクション漫画に感銘を受け、赤羽を訪れるところから物語は始まる。やがて山田は己を磨くために赤羽で暮らすようになる。

山田は渋谷区や港区とは明らかに違った街・赤羽で暮らし、地元の人々と触れ合うことで、成長しようとする。確かに赤羽で暮らす有名俳優など聞いたことがない。

だが、そもそも山田も本当に赤羽に居を構えたのだろうか? どこまで本当で、どこからが嘘なのか分からず、ふざけた内容なのだが、赤羽に光を当てたところは買いたい。得体の知れない構成にも惹かれる。

山田孝之の東京都北区赤羽

第3話では赤羽に住む鷹匠を山田が訪ねる。「なんで赤羽で鷹匠なのだ?」と思わせるが、この地に鷹匠がいるのは本当らしい。赤羽は懐の深い街なのだ。お洒落でない人間には肩身が狭い裏原宿や青山とは違う。

山田は鷹匠が鷹を操る姿を見たかったのだが、シーズンオフで鷹がお休み中。そこで、なぜか独身の鷹匠に代わって、山田が赤羽でナンパすることになり、それに失敗すると、女友達を紹介。

赤羽のナイトレストラン「マカロニ」で合コンとなるのだが、お世辞にもレストランには見えず、定食屋か一杯飲み屋だ。この店も実在するらしいが、情報番組ではないので、場所等の案内はない。

全編にわたり、ふざけていて、ゆるいのだが、登場する街並みや地元の人たちが新鮮。普段、ドラマでは見られない世界だから。

テレビ東京が次々と投げる変化球を安直に誉めたたえるのは口惜しいのだが、このドラマの冒険心や遊び心には魅力を感じる。これを見れば、地方の視聴者は東京に対する見方が少し変わり、軌道修正されるのではないか。

今後は板橋区、荒川区や江戸川区、西東京市などを舞台にしたドラマの誕生にも期待したい。このままでは画面の中の東京が、あまりにも現実と懸け離れてしまう。

トレンディードラマが全盛だったバブル期、その旗手だったフジの制作陣は、あえて少し現実離れした物語を作った。登場する若いサラリーマンやOLは分不相応なマンションに住み、高級服を着て、恋愛中心の生活を送った。

そんな物語に若者たちが憧れることを目指したという。誰もが右肩上がりの経済成長を信じていたあの時代には、そんなドラマ作りが正しかったのだろう。だが、今は違うはずだ。

若者たちの上京志向が年々低下し、全国から学生が集まっていた早稲田大学でも首都圏出身の新入生が増加するばかり。逆に地方大学が脚光を浴びている。都会を捨てて地方に移り住む人も増えている。

もはや渋谷区、港区での暮らしやリッチな生活に憧れている視聴者ばかりではない。ドラマ界そのものがマンネリを指摘されているのだから、ディープな東京や東京人を描いたドラマの出現を待ちたい。

いっそのことニュースやワイドショーにおける街頭インタビューの画一化も解消したらどうだろう。お年寄りを対象にした年金問題などのインタビューは巣鴨のとげぬき地蔵ばかりだし、サラリーマンから意見を聞くときは新橋駅前のSL広場が毎回のように登場する。だが、そればかりが東京ではないのは言うまでもない。

そもそもドラマも、ニュースやワイドショーも東京にこだわり過ぎているのではないか。ドラマの舞台は圧倒的に東京。

ニュースとワイドショーは地方で自然災害が起きたときには、扱いが淡泊なこともあるが、これが東京となると、数センチの積雪があっただけで大騒ぎ。画面の中では極端に東京がクローズアップされ過ぎている気がしてならない。

東京人でさえ、画面内の東京偏重には食傷気味なのではないだろうか。各局の路線バスを使った旅番組や散歩番組がウケている理由は、案外とこんなところにも一因がある気がする。

[引用/参照:http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150225-00042252-gendaibiz-bus_all]

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