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サッカー界の汚職とイングランド

■わいろを要求してきたサッカー界の重鎮たち

昨年12月初めに行われたワールドカップ(W杯)招致投票が予期せぬ惨敗に終わり、2018年大会の開催権をロシアに奪われたショックを引きずっているイングランドサッカー界では現在、来季以降もFIFA(国際サッカー連盟)に加盟し続けるべきかどうかの議論がなされている。

ブラッター氏スイスのチューリヒでデイビッド・ベッカムが落胆の涙を見せた後、元FA(イングランドサッカー協会)会長のデイビッド・トリーズマンは、南米サッカー連盟のニコラス・レオス会長、ブラジルサッカー連盟のリカルド・テシェイラ会長、北中米カリブ海サッカー連盟のジャック・ワーナー会長、FIFA実行委員会のメンバーであるウォラウィ・マクディらサッカー界の重鎮が、イングランドに投票する見返りとしてわいろを要求してきたことを英国の下院議会で証言した。

アンドリュー・ジェニングス著『タルヘタ・ロハ(レッドカード)』の中で数々の汚職事件への関連が伝えられたトリニダード・トバゴのワーナーは、母国に教育機関を設立するための資金として280万ユーロ(約3億2500万円)を要求。

同様に、レオスは"サー(ナイト)"の称号を、マクディはプレミアリーグのテレビ放映権、そして母国タイ代表とイングランド代表の親善試合開催を求めた。

またトリーズマンによれば、テシェイラは誰よりもダイレクトに「わたしの元に来て何を提供できるか言ってみろ」と言ってきたという。

イングランドのスポーツ大臣ヒュー・ロバートソンはFIFAに対し、過去に国際オリンピック委員会(IOC)が行った調査と同様の透明性を求めている。

1998年に行われた02年ソルトレイク冬季五輪の招致活動において、招致委員会のトム・ウェルチとダイブ・ジョンソンがIOCのメンバーに献金を試みたことが発覚した後、IOCは本格的な調査に乗り出して6人の委員を除名するに至っている。

■FIFA会長選の棄権も

5月31日に行われるFIFA会長選挙でどの選択肢を採るべきか検証すべく、FAのデイビッド・バーンスタイン現会長は既に弁護士を雇った。選択肢は3つ。

1つは、FAとの関係が悪いジョセフ・ブラッター現会長への投票。

2つ目は、ブラッターの対抗馬であるカタールのモハメド・ビン・ハマンへの投票。

そしておそらく最も可能性の高い3つ目の選択肢は、棄権である。

FIFA18、22年W杯招致選挙の数週間前の時点で既に、FIFAは2人の実行委員に処分を科している。

ナイジェリアのアモス・アダムとタヒチのレイナルド・テマリ元オセアニアサッカー連盟会長は、米国の招致委員を装った英紙『サンデー・タイムズ』記者のおとり取材に対し、投票の見返りとしてさまざまな便宜を要求。アダムは50万英ポンド(約6620万円、半額は前払いで)を要求し、テマリはほかの候補から1000万(約8億1500万円)~1200万米ドル(約9億8千万円)のオファーを受けていると発言していた。

両者はFIFAの倫理委員会から長期の活動停止処分を科されたと言われている。だが、実際はどうだろうか。

ブラッターは前週、複数のメディアに対して遺憾の意を表するとともに、これらの汚職疑惑に対する調査を行うことを約束した。

彼の命によりFIFAは『サンデー・タイムズ』に文書を送り、ジョン・ホワイティンゲイルを中心に、イングランドの18年のW杯招致失敗を検証している国会の調査委員会の元に渡った同紙の調査結果を提出するよう求めている。

■対立が表面化したのは初めてではない

イングランドとFIFAの対立関係が表面化したのは今回が初めてではない。イングランドは創立の2年後にあたる1906年にFIFAに加盟したが、それは08年のロンドン五輪開催に向けた利益を得るのが目的であり、要求したドイツの追放が受け入れられなかったことで第一次世界大戦の終結前に脱退した。

24年に再び加盟するも、4年後にはFIFAが決定したプロ化に反対して再び脱退。完全にFIFAの一員となったのは47年で、初めてW杯に参加したのは大失敗に終わった50年のブラジル大会だった。

50年のブラジル大会
50年のブラジル大会

しかしながら、イングランドのメディアは66年大会で起こった出来事についての言及だけは極力避けてきた。当時非常に強く、開催国イングランドの初タイトル獲得を脅かす存在だった南米大陸のアルゼンチン、ブラジル、ウルグアイは、不当な形で敗退に追い込まれた。

大会2連覇中のペレを擁するブラジルは、レフェリーにほとんど見向きをされぬままグループリーグで衝撃の敗退を喫した。ウェンブリーで行われた準々決勝イングランド対アルゼンチン戦の勝敗は、アルゼンチンのキャプテンであるアントニオ・ラティンがドイツ人レフェリー(ルドルフ・クライトライン)に命じられた不可解な退場で決まった。

この判定を検証すべく、試合が長時間中断されたことがきっかけとなり、70年のメキシコ大会ではゲームの迅速化を図るべく、史上初めてイエローカードとレッドカードが導入されたのだった。

別の準々決勝、ドイツ対ウルグアイ戦では、イングランド人レフェリー(ジェームズ・フィニー)がウルグアイのトロチェとシウバを退場処分とすることで、欧州の同胞にアドバンテージを与えた。そして決勝では、ゴールラインを割っていないように見えたジェフ・ハーストの疑惑の決勝点が認められるという形で、そのドイツがイギリス製の薬を飲まされることになった。■自身のテリトリーでは異なる物差しを使うFA

アレハンドロ・ファウリンイングランドのサッカー界にとって、汚職という概念が常に変わらない特別なものならば、FIFAを脱退する必要はないだろう。

再度の脱退や会長選でブラッターに反対票を入れるといった脅しを行っているFA自身、先日、アルゼンチン人FWアレハンドロ・ファウリンを不当に獲得したクイーンズ・パーク・レンジャース(QPR)に87万5千ユーロ(約1億2000万円)の罰金を科している。

QPRは彼の活躍もあり、プレミアリーグ昇格を勝ち取ったのだった。

QPRの株主の中には、F1界の重鎮であるバーニー・エクレストンとフラビオ・ブリアトーレ(彼は鋼材業界の成金ラクシュミー・ミッタルに持ち株の20%を売却した)、そしてスペイン元首相ホセ・マリア・アスナールの義理の息子アレハンドロ・アガグが名を連ねる。

これらの株主にとっては罰金の支払いなど大した問題ではないだろう。うわさされていたように勝ち点のはく奪という形で処分が科されていれば、おそらくチームはもう1年チャンピオンシップ(2部)でプレーすることになっていたのだから。

どうやらFAは、自身のテリトリー内においては国際レベルのそれとは全く異なる物差しを使っているようだ。

[sportsnavi]

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