試合は、苦しい展開だった。
そもそもシリア対策は、試合前日にビデオを見て、全員が学習済みだった。
「10番に当ててサイドがそれを拾ってというパターンが多いんで、ボランチとセンターバックで挟み込んで対応したい。セカンドボールも自分らが拾えるように対応していけば、個人でどうこうという選手はいないんで、そんなに対応が難しいという感じはない」
山口蛍も、そう言って、シリアを封じ込む自信を見せていた。
■「彼の貪欲さが我々のチームに力を与えてくれた」
扇原も「大津くんはドリブルもうまいし、タメも作れる。ちょっとタイプは違うけど、キヨクン(清武)と似ている部分もあるんで、すごく頼もしいです。それに短時間でチームにフィットしたのはすごいなって思いました。攻撃陣の層が厚くなってチームにとってはすごいプラスになりましたね」と、絶賛した。関塚監督も「彼の貪欲さが我々のチームに力を与えてくれた」と、大津効果を語った。
途中加入でこれだけ速効性の高い効果をもたらしたのは、1999年の中田英寿以来だ。
黄金世代中心のシドニー五輪代表に初招集された中田は、最終予選の初戦であるアウェイのカザフスタン戦で先制ゴールを決めるなど大活躍し、予選突破の救世主となった。
今回の大津のプレーも救世主に相応しいものだった。
ゴールはもちろん、体の強さを活かしたキープ力、得意のドリブル、2列目からの飛び出しなど、清武不在の中で攻撃のアクセントとなった。また、大迫勇也、山田直輝、比嘉とのコンビネーションも良かった。バーレーン戦2日前に合流して、これだけの短期間で連係を磨けたのは、高い技術と優れた戦術眼を持っているからだろう。
■「泥臭くても1点は1点。ゴールに対する貪欲さをドイツで学んだ」
特筆すべきは、大津の守備面での貢献だ。
スライディングでボールを奪うと、そのままドリブルに転じるプレーは、関塚監督が求める攻守の切り替えの速さを体現した。ドイツでは、まだ結果を残していないが、食事や専属のフィジカルコーチを付けて肉体改造に取り組むなど、生き残りを賭けた日々を送る中、地道に成長している姿を見せてくれたのだ。
「日本では繋いできれいにサッカーをやることを考えていた。でもドイツでは、どんな形でもFWは1点を取るのが重要。泥臭くても1点は1点なんです。そのゴールに対する貪欲さをドイツで学んだし、それを今回出せたのは自分自身すごく良かったと思います」
大津は端正な顔に柔和な笑みを浮かべて、そう言った。
来年2月5日のアウェイのシリア戦は、さらに少ないチャンスでゴールを求められることになる。今回は、大津が救ってくれたが、次は研究されるはずだ。その時は、また新しいヒーローが誕生するのか。それとも既存の選手が意地を見せるのか――。
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