これで、ナビスコカップ、Jリーグと合わせて、2000年の鹿島アントラーズ以来となる「三冠」を達成。J2からの昇格初年度としては、史上初の快挙となった。
「チームの総合力です」
長谷川健太監督は、「三冠」を成し遂げた要因をそう語った。
11月、最初の一冠となるナビスコカップ優勝を飾ると、「総合力」という言葉が、監督、選手をはじめ、チーム全体から聞こえてくるようになってきた。
はたして、三冠という偉業を遂げたガンバの「総合力」とは、いったいどんなものなのか。それは、長谷川監督が行なってきた、いくつかの"改革"によって備わったと言えるだろう。
話は、長谷川監督がガンバの指揮官に就任した昨年に遡(さかのぼ)る。当時、ガンバのチーム状況は、長谷川監督が初めて指揮を執った清水エスパルス(2005年~2010)の状況と非常によく似ていたという。
「そのときのエスパルスはベテラン選手が多かったんだけど、同時に岡崎(慎司。現マインツ/ドイツ)をはじめ、8人もの新人選手が入ってきた。
エスパルスはなかなか世代交代ができなくて、クラブも危機感を抱いていた。それで、若い選手を大量に獲得した。その際、(自分が)やらなければいけなかったのは、若い選手にいろいろと教えながら、ベテラン選手と折り合いをつけていくこと。
しかも、失点が多かったんで、そこも修正しなければならなかった。そんな当時のエスパルスと、(自分が監督に就任したときの)ガンバも同じ状況だった。
やるべきことは、世代交代を推し進めつつ、失点を減らすこと。その作業をしながら、自分の考えを落とし込んでいく、というところからスタートした」
そうして、長谷川監督がガンバで最初に取り組んだのは、守備だった。
2012年シーズン、ガンバがリーグトップの得点数(67)を誇りながらJ2に降格したのは、明らかに守備に問題があった。
失点数はリーグワースト2位の65。長谷川監督はまず、それを半分に減らすことを考えたという。そのために、最初は守備のブロックを敷くことを徹底。そのうえで、前からボールを奪うという意識を選手たちに植え付けていった。
決して簡単なことではなかったが、日頃のトレーニングでも守備の練習に時間を割いて、J2で戦う中でも、守備のことに関しては、細かい点まで繰り返し注意を促した。
「選手たちからはよく、『どこでボールを奪ったらいいんですか?』と聞かれたけど、大事なことは、ボールを奪う場所ではなく、個々の意識づけ。
自分としては、(前で奪うと意識させることで)全体の守備意識を高めたかった。加えて、(前線の選手から)相手のパスコースを限定して、個々が連動して動くことを徹底していった。
ひとりひとりがそういう意識を持って動けば、ボールは奪える。ただ、そういうふうにボールを奪うことばかり意識すると、今度はゴール前の守りがおろそかになってしまう。だから同時に、守るときはまずブロックを作ることを重視した。そうやって、徐々に守れるようになってきた」
さらに長谷川監督は、攻守の切り替えを速くすることを「かなりうるさく言ってきた」という。おかげで、J1に上がった今季も、守備力は以前に比べて、かなり増していた。
もともと攻撃力のあるガンバに守備力が加わったのだ。それで、勝てないはずがない。シーズン当初こそ、FW宇佐美貴史がケガをして振るわなかった攻撃も、ブラジルW杯開催による中断期間中にFWパトリックが加入。
宇佐美と息の合ったプレイを見せ、本来のガンバらしい攻撃が復活すると、中断明け以降は攻守が噛み合って勝ち星を重ねていった。
「勝ち続けることで、一層攻守が安定するようになった」(長谷川監督)
リーグ戦では最終的に、得点がリーグ2位の59。失点は目標どおり、一昨年の半分以下となる31に抑えた(リーグ2位タイ)。
攻撃だけでなく、守備だけでもない。高いレベルで安定した攻守を構築できたことが、チームとしての"総合力"アップにつながって、強いガンバを作り上げた。
長谷川監督はまた、J2で戦う昨季、守備力の強化と同時に、これまで出番の少なかった中堅や若手選手を積極的に登用。今後の世代交代を見据えつつ、チームの底上げを図ってきた。
その中で、MF阿部浩之をはじめ、FW佐藤晃大、MF倉田秋、MF大森晃太郎、DF西野貴治などが力をつけ、それが今季、Jリーグ、ナビスコカップ、天皇杯と、ハードスケジュールを乗り切る要因となった。
ナビスコカップ決勝(11月8日/3-2サンフレッチェ広島)では、途中出場の大森が決勝ゴール。Jリーグの天王山となった第32節の浦和レッズ戦(11月22日/2-0)では、パトリック、宇佐美に代わって出場した佐藤と倉田が、それぞれゴールを決めて快勝した。
スタメンだけでなく、サブも含めたメンバー全員で勝つサッカー。それこそ、まさに「総合力」と言えるもので、ガンバの強さを象徴するものだった。
長谷川監督が、自らの考えをブレずに貫き通したことも大きかった。
W杯中断前、チームはJ2降格圏内の16位だった。クラブとしては、そうした状況を黙って見ているわけにもいかず、大幅なテコ入れを長谷川監督に進言した。しかし長谷川監督は、クラブからの提案に首を振って、自ら推し進めてきたやり方を貫き通した。
「(試合で)勝てない状況が続いても、ネガティブなことは一切考えなかった。ダメだったら、いつでも責任をとる覚悟はできていた。エスパルス時代にも、苦しい時期があったんでね。
そういうとき、チームをどうやっていけば活性化できるのか、自分の中で方法論があったし、今までやってきたことを継続していけば、必ず結果が出ると思っていた」
ガンバは、遠藤が動じなければ、他の選手たちも落ち着いてプレイできる。下位に低迷していても、チームが焦ったり、混乱しなかったりしたのは、そのためだ。
長谷川監督のブレない姿勢は、遠藤を通して、チームを一枚岩にしていった。それがまた、チームの「総合力」を高め、「強さ」の源となった。
あと、忘れてはならないのは、サポーターの存在だろう。彼らがチームに与えた力は計り知れない。宇佐美がゴールを決めたあとや、優勝を決めた瞬間、真っ先にサポーターのいるスタンドに向かって駆けていくのは、その証。
長谷川監督も、常々「サポーターに感謝したい」という言葉を繰り返した。
ガンバの勝利は、監督、選手、サポーター......クラブにかかわるすべての力が重ね合った、まさしく「総合力」によるものだった。そして今回、「三冠ホルダー」という自信とプライドが、ガンバの総合力に組み込まれた。
「強いガンバを取り戻す!」
大阪の地に着いて、最初にそう高らかに語った長谷川監督のファーストミッションは、見事成功を収めた。そしてこれから、新たなミッションが始まる。
[引用/参照:http://sportiva.shueisha.co.jp/clm/jfootball/2014/12/14/post_799/]
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