元日本代表FW大久保嘉人(31=J1川崎)が「サプライズ」で日本代表メンバーに選出された。ザックジャパンには1度しか呼ばれていないベテランストライカーが、最後の1枠に滑り込み。サプライズの舞台裏に迫ると、複雑な背景が浮かび上がってきた――。
大久保嘉人
日本代表アルベルト・ザッケローニ監督(61)が16人目に「オク~ボ」と名前を読み上げると、会場からどよめきが起こった。海外遠征に向かうバスの車中で選出を知った大久保は「みんながほえたので、一緒にほえました」と興奮を隠せなかった。
日本代表入りは2012年2月のアイスランド戦以来。ザックジャパンにはこの1試合しか呼ばれていない。それでも土壇場でブラジル切符を手にできた。
大久保は「Jで結果を出すしかなかったし、点を取り続けてここまできた。そこだけかな」と冷静に分析した。
昨季はJ1得点王に輝き、今季も日本人トップの8得点。これまでも待望論がありながら、代表復帰は実現しなかった。
ザッケローニ監督は「今まで、彼以外の選手を成長させることが大切だと考えていた」と説明。では、なぜベテラン大久保の招集より、MF工藤壮人(24=柏)ら若手育成を優先させたのか。
在京Jクラブのコーチはこう指摘する。「監督として若手を育てたという実績作りのためだろう。例えば香川なんか、ザックが”育てた”とアピールできる一番の存在だし、次の監督オファーにも影響してくるからね」
2010年の南アフリカW杯でサポートメンバーだった香川は、ザックジャパンになると世界有数のプレーヤーに成長した。「若手育成」の実績は、各国クラブチームへのアピールになる。つまり、指揮官としてはブラジルW杯後の”就活”の思惑もあって、大久保より若手に目がいっていたのだという。
だが、最終的には、可能性のある若手を育成できず、W杯を勝ち抜くために「戦力」を選んだ。ザッケローニ監督は「経験があり嗅覚があり、どうすればチャンスが生まれるかよく分かっている選手」と話し、チームの救世主として大きな期待を寄せたが、大久保選出には別の狙いもある。それは不振の香川を再生することだ。
日本の10番は所属するマンUでノーゴールのまま今シーズンを終えた。その復調は日本代表の躍進には不可欠となるが、大久保と香川はC大阪時代から親交が深い。現在もオフになれば香川が大久保宅を訪れるほど。
実際、香川は状態が良くないと大久保を頼ってきた。昨年3戦全敗に終わったコンフェデレーションズカップ(ブラジル)では、国際電話でアドバイスを求めている。大久保も「代表に選ばれたら喜んで協力します」と話したように、復活の手助けに異存はない。
一方、大久保がこれまで代表に選出されなかった理由には、エース本田との相性もあると言われてきた。それでも、もう一人のエース香川の状態の方が深刻で、本田との相性を差し引いても、兄貴分の大久保を呼ぶ必要があったということだろう。
指揮官からピッチ内外で大きな任務を託された上でのサプライズ選出。大久保が日本躍進のキーマンとなりそうだ。[東スポ]
http://www.tokyo-sports.co.jp/sports/soccer/265655/
■大久保嘉人、ザックはこう使う
なぜ、ザッケローニ監督は、大久保を選んだのか。
もし、かねてから最後には選ぶつもりで、あえて一度も呼んで来なかったのだとしたら、チームや個人のマネジメント、世論をうまくコントロールするという点で、かなりの手腕だと言える。
一度も試していなかったからこそ、大久保が加わることによる化学反応への期待感も、本人のモチベーションも今、このうえなく高まっている。また、チーム内にも良い刺激になっているはずだ。
その一方で、チーム事情のため、最後の最後になって大久保の力がどうしても必要になったという見方もできる。これまで信頼して起用してきた攻撃陣に、本調子と言えない選手が多くなっているからだ。
マンチェスター・ユナイテッドで前監督に冷遇された香川真司は、ついに無得点のままシーズンを終えた。
昨シーズン21ゴールを奪った柿谷曜一朗もチーム戦術の変更から、昨年のようにゴールを量産できていない。
ニュルンベルクで2部降格を味わった清武弘嗣も、低迷するチームに引っ張られるように好不調の波があり、本田圭佑までもがミランではトップ下で起用されず、出場機会を得られないゲームもあった。
クラブと代表は別物とはいえ、こうした状況の中、得点力があり、前回大会の経験者で、ずっと好調を維持している大久保の存在が、指揮官の心の中で徐々に大きくなっていったのだとしても不思議はない。
ザッケローニ監督は、大久保の魅力として「経験」「クオリティ」「意外性」を挙げた。
「意外性」という言葉を「何か驚くことをやってくれそう」という意味合いとして受け取ると、今の大久保の魅力がより伝わりやすくなる。
世界の屈強なDFを手玉に取って、列強相手にゴールを奪ってくれそう――。このスケール感、ワクワク感こそが、大久保待望論が巻き起こった要因だろう。
今の大久保はとにかくボールを奪われない。クイックネスがあるから簡単にマークを外し、隙があれば一瞬でターンして前を向く。相手が後ろからガツガツくればシンプルにはたいて、DFの視野から逃れてリターンを受ける。大久保は言う。
「昔は(敵DFを)背負うのがあまり好きじゃなかったんですよ。後ろからガツガツ来られるのは嫌だった。でも、今はどんどん来いって思っている。来たらシンプルに預けるし、来なければ前を向く。その駆け引きが楽しくてしょうがない。どっちでも来いという感じ」
ゴールパターンが多彩なのも、大きな魅力だ。右でも左でも頭からでも奪え、ミドルシュートの決定率が高いのもいい。昨季には「コツを思い出してきた。打てば入るという感覚がある」と語ったほどだ。
今の大久保を「無駄がなくなって、ストライカーとして洗練された」と言うのは、盟友の中村憲剛だ。大久保本人も「4年前と今とではプレイスタイルが全然違う。4年前より良い選手になっていると思う」と言う。[sportiva]
http://sportiva.shueisha.co.jp/clm/jfootball/2014/05/14/post_616/index2.php
■青山敏弘、5番手からの逆転選出
青山敏弘
ザッケローニ監督を振り向かせた、青山の魅力は縦への意識。「攻撃のスイッチを入れる」縦パスのセンスはJリーグでも屈指だ。
見た目の体格(身長174cm、体重73kg)から受ける印象以上にフィジカル能力は高く、守備面での危機察知能力も備えてはいるが、タイミングのいい縦パスで攻撃のリズムに変化を生み出すことこそが、青山最大の武器である。
この優れた攻撃センスに誰より助けられているのは、広島のFW佐藤寿人だろう。スペースを見つけ出す嗅覚抜群のこのFWは、青山が放つ縦パス1本でいとも簡単にDFラインの裏に抜け出し、決定的なシュートチャンスを作り出す。この痛快なホットラインなしに、佐藤が一昨季、J1得点王を獲得することもなかったはずだ。
どちらかと言えば、細貝と山口が1対1での守備能力やボール奪取能力に特徴があることを考えると、青山が他のボランチとの差別化を図れたことは、代表行き残りに好都合だったと言えるだろう。
余計な横パスを省き、ゴールへ向かって積極的にボールを運ぶことを求めるザッケローニ監督にとって、青山の「縦への意識」が魅力的なものに映ったとしても不思議はない。実際、青山はニュージーランド戦に先発出場。すでにサプライズ選出の”予告”はなされていたわけである。
思えば、4月に国内組だけで行なわれた代表候補キャンプに参加した際、青山はこんな言葉で手応えを口にしていた。
「ザックさんには自分のよさをわかってもらえていると思う」
5番手からの逆転選出。青山の思いは確かに指揮官に通じていた。[sportiva]
http://sportiva.shueisha.co.jp/clm/jfootball/2014/05/13/post_617/index3.php
誰だよ青山って