巨人阿部慎之助内野手(35)&坂本勇人内野手(26)の、新旧主将クロストークを送ります。
グアム自主トレ帰国の直前に実現した「禅譲式」。グラスを傾ければ坂本の緊張も徐々に解け、キャプテンとは、の核心に迫っていきます。
阿部が部屋の窓を開けた。波の音に乗せて「勇人、ちょっとこっちで話そうか?」と、太い声で呼び掛けた。坂本がテーブル席に腰を掛けた。
旧主将は、氷がギッシリ詰まった焼酎グラスを口元に運び「もうグアムで一緒にやって8年になるんだな」と切り出した。
坂本はひどく緊張していた。未熟な自分を自主トレに誘ってくれた恩人。チームを引っ張る姿も間近で見てきた。行動をともにする機会は意外に少ない。リビングルームに少しの間、緊張感が漂った。
黙っていては、始まらない。坂本に代わって、第一声を発した。
-今の坂本の姿を想像できたか?
阿部 想像なんかできないよ。鳴り物入りで入っても、活躍できるかどうかわからない世界。でも、勇人は高卒1年目で1軍に上がって、大事な場面で初安打が決勝打。何か持ってるな、って思ったね。
-どのあたりが成長したのか?
阿部 野球人としても、人間としてもしっかりしてきた。18歳から見てるけど、一緒にやってる人間が成長していくのはうれしい。
阿部の目を見て、うなずくばかりだった坂本。照れくささを押し隠すようにグラスを傾け、話し始めた。
坂本 信じられないんです。野球人生で1度もキャプテンをやったことのなかった僕が、ジャイアンツのキャプテンなんて…。
阿部 俺だって、今の自分は全く想像できなかった。勇人は今年で27歳か。俺がキャプテンになったのは28歳の時だったんだけど、一番心掛けたのは年上の人といかにコミュニケーションを取るか、だったな。
坂本 どういうふうにやられてたんですか?
阿部 キャプテンになってすぐの頃は、できるだけ年上の人を食事に誘って、いろんな話をした。食事の席だと、素で話ができるからな。
それで会計の時は、「すみません。今日は僕に払わせてください」とお願いした。「未熟な部分もあって、シーズン中、失礼なことを言ってしまうかもしれませんが、よろしくお願いします」ってね。
坂本は話を聞きながら、指折りで数えた。「僕より年上の方ですか…。由伸さんや井端さん、たくさんいます」。阿部がソッと背中を押した。
阿部 大丈夫だよ。今年、年俸上がったんだろ? 周りも知ってる。去年の成績から見ればどうだ?
しっかりと評価してもらっただろ? だから「僕の年俸の中には、そういうお金も含まれてるんです」って言うんだ。それを聞いて怒る人なんて、いないから。
テーブルに落ちたグラスの水滴を、阿部はタオルで丁寧に拭いた。
「俺はA型だから。繊細なんだよ。だから、気を使うし、最初はしんどかった」。
坂本も一緒に拭きながら、本当に聞きたかったことに会話を移した。「よく『どういうキャプテンになりたいですか?』と言われる。でも、やったことがないんで、分からないんです」。
阿部 遠慮するなよ。俺にだってそうだ。任された以上、お前のチームって言われるんだ。長いシーズン、何をしてもうまくいかない時は絶対に来る。
その時「今日、試合前に時間ください。ミーティングします」とか「みんなで飯行きましょう」とか、しっかりと言えるか。
急だったとしても、「予定のあった方、すみません」って頭を下げるんだ。誰かにお伺いを立てる必要もないし、自分がこうだって思ったらやればいい。それが、キャプテン、ってことだから。
「焼酎:水」の比率が大ざっぱになり始めた。阿部は「男としての懐を開け」と持論を展開した。遠慮は逆に、失礼になる。正直に不安を吐いた。
坂本 僕はずっと阿部さんの背中を見てきました。言葉でも成績でもチームを引っ張ってこられた。8年で優勝6回。僕がキャプテンになって続けていけるのかと…。
阿部 俺だって、すぐに結果が出ると思ってなかった。本音は3年以内に優勝したいな、って。責任を感じるのは当然。
でも、押しつぶされてるようなら、それまでの選手だったってこと。俺たちは結果の世界で勝負している。グラウンドでは、1人の選手として勝負すればいいんだ。
阿部は1度も「困ったら俺に頼れ」と言わなかった。「勇人のチームにしろ」と強く望んだ。「年は関係ない。監督、コーチ、球団、誰もが認めたから、お前に託したんだ」と繰り返した。
坂本の表情がパッと澄んだ。「頑張ります」。緊張も不安も、もうなかった。授かった主将の覚悟を宝物にシーズンを迎える。【取材・構成=久保賢吾】
[引用/参照:http://www.nikkansports.com/baseball/news/p-bb-tp0-20150125-1426032.html]