ロッテが「史上最大の下克上」を果たした。
7日の日本シリーズ第7戦に延長12回の末に勝ち、4勝2敗1分けで日本一に。
史上初めて公式戦3位からクライマックスシリーズを勝ち上がって頂点に立った。だが、球団関係者には快挙の余韻に浸っているヒマもない。
キャプテンの西岡剛内野手(26)がポスティングシステムによるメジャー移籍をとりざたされているのをはじめ、守護神の小林宏之投手(32)が海外FA権を行使しメジャー挑戦へ。
中日キラーの渡辺俊介投手(34)、里崎智也捕手(34)は国内FA権を取得済み。シーズンオフ突入即チーム分解の危機を内包している。
西村監督が3度宙に舞うのを笑顔で見守ったロッテ・石川晃球団運営本部長は、ナゴヤドームを引き揚げる際には「来年、再来年に向けてチームづくりをしていかないといけません。
FAのこともあるし、ウチにはいろいろな選手がいますから…」と、もう表情を引き締めていた。
無理はない。日本シリーズ終了翌日から、土・日・祝日を除いた7日間、つまり16日までがFA宣言期限。
石川運営本部長は、日韓クラブチャンピオンシップ(13日=東京ドーム)へ向けた練習と並行してFA選手引き留めへ向けて交渉を行うことになる。しかも、FA選手以外に、西岡という超ド級の存在もいるのだ。
石川運営本部長は「(メジャー移籍希望が)あれば、本人から言ってくるでしょうし、こちらから話を持ちかけることはない。
“行きたい”という気持ちは、周囲からチラホラ聞いてはいますが…。(本人から相談があった場合)私自身の気持ちは『ダメ』ですが、私だけでは決められない。(瀬戸山隆三球団)社長、(重光昭夫)オーナー代行と相談します」と複雑な表情だった。
西岡の海外挑戦の思いは強い。しかし、日本人内野手がメジャーで成功した例は皆無に近い。
本紙評論家の須藤豊氏も「日本シリーズを見ていても、内野手からの“矢のような送球”というものが見られなかったのは寂しかった。肩の強さの点で物足りなかった。西岡にしても、そしてソフトバンクの川崎にしても、メジャーでショートとしてやっていくのは難しいのではないか」と指摘する。
もちろんロッテにとっては、今季からキャプテンに就任して打率・346で首位打者に輝き、チームの精神的支柱にもなった西岡の存在は不可欠。
「現時点で、いなくなったときのことは想像もできない」(石川運営本部長)のも当然だ。
一方、サブマリンの渡辺俊がFA宣言した場合は、巨人が獲得に乗り出す可能性がある。
「手を挙げるかどうか決めるのはフロント首脳。ただ、“中日に強い投手”ですから、全く興味がないといったらうそになるでしょう」と巨人球団関係者。
なにしろ今季の巨人は、中日に9勝15敗と相性が悪く、CSファイナルステージでも一蹴された。中日キラーと聞けばノドから手が出るほど欲しいのが本音のはずでV奪回の決め手にもなりうる。
渡辺俊は過去の交流戦で中日に対し通算5勝1敗。とりわけ千葉マリンでは無傷の4勝を誇る。2日の日本シリーズ第3戦(千葉マリン)でも、わずか97球で1失点完投勝利をやってのけたのである。
ただ、その渡辺俊がナゴヤドームに舞台を移した7日の第7戦では一転、先発して2回4失点KO。右ひじに違和感があるようなしぐさも見せていた。
中日の田中彰スコアラーが試合前に「渡辺俊が巨人に入ったら? 今季の公式戦防御率が4点ナンボの投手やで。第3戦はウチの投手が序盤に点を取られて展開を悪くし過ぎた。
千葉マリンは風も吹くし、ナゴヤドームや東京ドームに比べてマウンドが低いという事情もある」と“恐るるに足らず”と言わんばかりだったのを裏付ける結果にはなった。
実際、CSから調子を上げた渡辺俊だが、今季8勝8敗で、防御率4・49はパ・リーグ16位で、規定投球回数を突破した投手の中では最下位。
千葉マリン独特の強い風を利用して緩い変化球を駆使するほか、比較的低いマウンドもサブマリン向きといわれている。巨人が今季公式戦2勝10敗、ただいま9連敗中(CSを除く)のナゴヤドーム対策にはならないというわけか。
過去には、1999年の日本シリーズ(中日対ダイエー)の第1戦で工藤公康(今季限りで西武退団)がシリーズ記録の13奪三振で完封勝利。これが強烈なアピールになったのか、翌年巨人にFA移籍したこともあるが、その工藤自身、第4戦に姿を見せた際、「巨人が渡辺俊? それはないよ。なんのために巨人は育成枠に力を入れてきたのかを考えてみれば、わかるだろう」との見解だったが…。
「右ひじ? いや、なんでもありません。FA? まだ(球団と)何も話してないので、これから話して決めます」と話した渡辺俊が、まずどんな第1歩を踏み出すか。
さらに、第7戦でも1点リードの9回に登板して追いつかれるなど不振の小林宏もメジャー移籍を希望しており、8日にも球団にFA権行使の申請手続きをする見通し。強打の捕手である里崎にも、需要の高いポジションだけに、興味を持つ球団は数多い。
残留か流出か、いずれも予断を許さない。CS以降旋風を巻き起こしたロッテが、まだ当分は話題を独占しそうだ。[夕刊フジ]