264秒衝撃TKOの舞台裏
プロボクシングのWBA、IBF、WBC世界バンタム級の3団体統一戦が7日、さいたまスーパーアリーナで行われ、WBAスーパー&IBF世界同級王者の井上尚弥(29、大橋)が、WBC同級王者ノニト・ドネア(39、フィリピン)を2回1分24秒TKOで下して日本人初の3団体統一王者となった。《中略》
ドラマの“続き“はなかった。そこにあったのは、さいたまスーパーアリーナを埋めた1万7000人のファンを熱狂させた衝撃的な井上の強さである。2分1分24秒のTKO決着という結末を誰が予想できたのか。
「やりました!」
それが日本人初の3団体統一王者となった井上のリング上での第1声。
「こういう早い回の決着も予想していたし、2年7か月前のああいう激闘も予想していた。いろいろなプラン、展開をイメージしていて臨んだ」という井上だが、「最初に(ドネアが)ダウンした瞬間は夢かと思った」とも言う。
人気ギタリスト布袋寅泰のギター演奏で先に入場してきた井上はドネアの様子を冷静に観察していた。当日計量で、ドネアが体重の戻しを前回よりも抑えてきていることを知った井上は「スピード重視で来る」と予想していた。
ゴングと同時にレジェンドが仕掛けてきた。フェイントを一発いれて、いきなり左フックを放ったのだ。井上はガードの隙間を抜くように右目付近を襲ってきた”伝家の宝刀”を浴びてしまう。
「あれで目が覚めた」
2年7か月前のトラウマが蘇った。
井上はガードを固めて警戒心を強めた。踏み込みよりディフェンスを意識したパンチの交換。左の差し合いではドネアが上回るシーンもあった。
「プレッシャーをかけてきてパンチを出させてカウンターを狙ってくる」
一度拳を交えドネアの戦法はわかっていた。
井上の予想通り、距離を測るドネアの足は軽快によく動いていた。だが、残り10秒を知らせる拍子が鳴った直後に、モンスターにスイッチが入った。
上体を揺らし右のパンチへのアクションを起こしかけたドネアのテンプルに井上のショートの右ストレートがクロスカウンターとなって炸裂したのである。
ここまで48戦のキャリアでKO負けが一度しかないレジェンドが、たまらず腰からダウン。すぐに立ち上がったが、井上が手を広げて「さあ行くぞ!」のパフォーマンスを見せると、場内のボルテージが最高潮に達した。
試合後、井上は、「勝負を決めるポイントになった」この右のクロスが生まれた経緯を、こう説明している。
「1ラウンド目は絶対に取らなきゃいけないと思っていた。あの左フックをもらった瞬間にそれ以上のインパクトを残さないと、このラウンドは取れないと。残り10秒の合図が鳴った時に少しだけエンジンをかけた。そこでうまく右が当たった」
このラウンドで踏み込んで打ったパンチは、この一発だけ。「抜けた感じで手応えはなかった」という右が、百戦錬磨のドネアの度肝を抜いたのである。そのレベルはもはや異次元だ。
ゴングが鳴り追撃のできなかったインターバル。
井上は、父の真吾トレーナーにこう告げた。
「2ラウンドは(勝負に)行かないから」
終了間際のダウンであり、「どれだけのダメージがあるのかがさほどわからなかった」というリスクマネジメントと、「性格上(勝負に)行ってしまうので、自分を落ち着かせるためにあえて口にした」のが、その理由だった。
「いっちゃいましたけどね(笑)」
その言葉通り、井上は、左ジャブを軸にした基本のボクシングから入った。
「ドネアのカウンターに気をつけながら冷静に慎重に攻めた」
その中で「足がふらついていた」というドネアのダメージを見逃さない。
リング上で匂いを嗅ぎ分ける能力こそが、モンスターに備わっている特長のひとつ。自らにGOサインを出して、強烈な左フックを何発もお見舞いしドネアはぐらつき足がよろけた。
「キャリア最大の試合」と位置づけてきたレジェンドは、それでも耐えるが、井上は怒涛のラッシュ。最後は、ドネアのお株を奪う左フックでのフィニッシュ。
ドネアはロープに体をぶつけて仰向けになって倒れた。ドネアは立ってきたが、もうレフェリーはカウントを取らずに試合をストップした。
「左フックは得意なパンチではあるけれど、こだわりはない。でも、最初にやられたので、左でお返ししたい、はあったかな」
井上はコーナーを駆け上がって咆哮した。
「凄い。ビックリだね。思わず夢じゃないか、と自分のほっぺたをつねった。ベストバウトだね」
八重樫東のラストマッチでタオルを投げるタイミングを逡巡して以来、ジャージを着てセコンドに就くことを辞めていた大橋会長が、背広姿で思わずリングに駆け上がっていた。
大橋会長は「不安があった。苦戦するかもと思っていたから、我を忘れてリングに上がってしまった」と舞台裏を明かす。
「実は完調でなかった」
試合1か月ほど前に怪我があったのだ。
真吾トレーナーも「1か月前くらいに故障があった。痛み止めの注射を打たねば練習ができないくらいの怪我だった。調子は悪くなかったが、そこに不安はあった」と言う。
どこをどう怪我したかについての詳細は伏せたが、かなりの怪我だったのだろう。
開催が危ぶまれる場外でのトラブルは、まだあった。ドネアが契約するプロモート会社「プロべラム」に海外での問題が発生し、ドネアがリングに立てない可能性が浮上したのだ。
結局、それらはすべて解決したが、新型コロナの問題もあり、ストレスを感じた大橋会長が、体調を崩すほど。また試合直前にはWBCルールを採用して行われる予定だった公開採点にIBFから物言いがつき、急転、見送りとなった。
大橋会長は「一度発表したものを変えるのはどうか?」と食い下がったが、井上は「公開採点はない方がいいですよ」と気にしなかったという。
結果的には、4回終了後に発表されるだった公開採点など関係なかったが、いくつものハードルを乗り越え実現した日本初の3団体統一戦だった。
その間、井上は一度としてぶれなかった。
第1戦が「ドラマ・イン・サイタマ」と称されたドネアとの再戦が決まると「ドラマにするつもりはない」と明言した。
なぜそこまで自らにプレッシャーをかけたのか。
「プレッシャーをかけることでトレーニングだったり、意気込みだったり、自らの向上心を上げたいと考えた。発言したからには到達するまでやらねばならない。自分に言い聞かせた」
自らを究極に高めるために逃げ場をなくした。
ドネアは、井上との試合以降、弟の拓真が勝てなかったWBC世界王者のノルディ・ウバーリ(フランス)を倒し、若きホープの暫定王者レイマート・ガバリョ(フィリピン)も衝撃のボディショットで沈めて、井上との再戦切符を勝ち取ってきた。
「ドネアは実力がある。2試合いい試合をしている。(ドラマに…)発言はしたものの不安な面もあった。そこに打ち勝った結果だけど、もの凄いプレッシャーがあった」
モンスターが心情を告白した。
相手が強くなれば強くなるほど井上は強くなる。第1戦では、2ラウンドに左フックを浴びて右目に眼窩底骨折を負い、以降、相手が二重に見える状況が続き、体重の乗ったパンチも打てず、モンスターの能力は半減されていた。
WBSSバンタム級決勝 ドネアの左フック[2019年]
「たらればになるが、2年7か月前も、こういう展開をイメージしていた。でも、2ラウンドの左フックですべてのプランが崩れた」
燻っていた自負が、この日、間違っていなかったことを証明した。
「最高の結果に満足」「ホッとしている」という言葉もまた本音だろう。
井上は、自らのモチベーションを限界まで高めて、未知なる力を引き出してくれた好敵手のドネアへ敬意を表し、感謝の気持ちを伝えた。
「相手がドネアだからこそここまで燃えることができた。学生時代に憧れたチャンピオンであるからこそ、感動を呼べた。ドネアと戦えたことを誇りに思ってこの先へいきたい」
そのドネアは涙を浮かべながら花道を下がった。右目上をカット。控室でテーピングで応急措置をしたが、ダメージが大きく会見を拒否して会場を去った。
[via:Yahoo!/THE PAGE]
https://news.yahoo.co.jp/articles/bea0ba5c1f5f67204dcafbefac7d96b8e869e69f
ドネア「記憶が飛んだ」
1回終了間際、井上の右ストレートを左テンプルに浴び、たまらずダウン。目はうつろ、朦朧としながら、コーナーを一度確認すると慌てた様子でファイティングポーズを取った。
再開直後の初回終了で助けられ、2回は必死に盛り返そうとするも、最後は連打でコーナーに追い詰められ、左フックを浴びて勝負あり。39歳の生ける伝説はさいたまで散った。
試合後、取材対応はなかったが、自身のSNSでライブ配信を実施。試合を振り返った。その内容を米専門メディア「ボクシングシーン.com」が紹介。
ドネアは1回のダウンシーンを振り返り、「打撃を受けた時、キャンバスに倒れ込んだことさえ気づかなかった」「私はカウンターを決めようとしていたから、パンチが来るのが見えなかった」と証言した。
「今まで食らったパンチの中で最も強烈だったと言える。最初のKOは頭が真っ白になった。あのパンチが来るとは思わなかった」
その上で「何が起きたのか分からなかった。私はカウンターを狙っていたのに、キャンバスに倒れていた。そしたら審判がカウントしているんだ。『どういうこと?』って感じだった。
コーナーを見たら妻が『手をあげて! カウントされているわよ』と言っていた。『マジか! 俺はやられたのか』と思ったよ」と明かし、慌ててファイティングポーズを取った経緯を説明した。
ドネアは「ありがたいことに健康状態は悪くない」と語ったものの、モンスターの破壊力を身をもって体験したようだ。
[via:THE ANSWER]
https://the-ans.jp/news/246147/
真吾トレーナー真っ先にドネアに駆け寄る
決着の瞬間、真吾トレーナーが真っ先に向かったのは息子のもとではなかった。
2回、井上のラッシュを浴びたドネアが倒れ込み、TKOで幕切れ。井上がコーナーポストに上がり、ガッツポーズを繰り出す中、真吾トレーナーもリングに入ってきた。
駆け寄ったのは、ふらふらと下がっていくドネアのもと。ドネア陣営よりも早く安否を確認し、ライバルを思いやった。
この模様は中継でも映っており、ネット上で話題に。
「お父さんの姿に涙しました」
「父の行動にも感動しました」
「井上家は父も子もボクシング界の鑑」
「そこに気付けることが凄い」
「なんという一家だ」
「尚弥じゃなく、ドネアに駆け寄ったのが素敵すぎた」
「胸熱だった」
など、絶賛の声が続々と上がっていた。
[via:THE ANSWER]
https://the-ans.jp/news/246169/
ドネア退場の花道で神対応
ドネアは敗れてなお、紳士を貫いた。
試合後、ドネアは井上を「オメデトウ」と祝福し、リング上で抱擁。そして、リングを降りて退場する際は涙を浮かべながら、声援に何度も頭を下げ、お辞儀を繰り返した。
その直後だった。花道を通る際、付き添っていた男性スタッフが何かにつまずいたのか、転倒した。
すると、驚いたドネアはさっと手を差し伸べ、身体を起こした。敗れた直後で身も心もダメージがある。周囲に配慮できなくて無理もない状況。にもかわらわず、誰よりも早く反応し、行動したのだ。
このシーンは中継でも映っており、ネット上でも話題に。
「色んな感情がうごめく中 あの場面でこの対応」
「なんという素晴らしい人格」
「ドネアの人柄が出てる」
「負けた後に、あの対応は普通できない」
「この対応は神」
「負けてもちゃんと最後おじぎしてて紳士を感じた」
「ああいうことを自然にできる、それが一流」
「素敵なシーン」
「ボクサーとしても人間としても誇り高き紳士」
「感動しました」
などの声が上がった。
もともと紳士的な選手と知られていたドネア。去り際でのぞかせた優しさに注目が集まっていた。
[via:THE ANSWER]
https://the-ans.jp/news/246235/
海外ネットの反応
・この試合のために早起きする価値はあった
・こんなに早く終わらせるとは思っていなかったから、文字通りベッドから飛び起きてしまったよ
・おい、この男はとんでもないわ
・なんてこった、井上が勝つと思っていたが、ここまで一蹴するとは
・彼が血の臭いを嗅ぎつけた時…全ては終わった
・ドネアはノーチャンスだった
・残酷なまでの圧倒劇 言葉がないよ
・2ラウンドにしてはかなり濃密な内容だったよ
・井上選手は素晴らしいボディーとジャブで、見事なパフォーマンスを見せてくれた。とても正確無比だった。
・井上はどのステップにも無駄な動きがないんだ 狂気のパフォーマンスだった
・あんなに綺麗な左フックは見たことがない
・井上尚弥は人間とは思えない。彼はドネアをいとも容易に残忍に仕留めた。
・ドネアは年齢的に負けると思っていたけど、2ラウンドとはね…井上は別格だわ
・グローブを(薄い)レイジェスに変えたけど、6、7ラウンドまでは行くと予想していたよ
・レイジェスのグローブを付けた井上はマジモンのモンスターになった
・パワーもスピードも精度も高次元すぎる カシメロは井上とは戦いたくないだろう
>カシメロは体重計とさえ戦おうとしないからw
・時の流れには勝てないけど、それでもドネアのパフォーマンスには目を見張るものがあった
・39歳と全盛期のハードパンチャーのモンスター
・それでもドネアはレジェンドだよ
・感銘と失望を同時に感じているよ
・井上の直近の低調な試合とドネアの最近の好調なファイトから、僕らは誤った希望を抱いていたようだ
・井上は僕の大好きなボクサーだが、ノニトのことを思うと残念だ。しかしこの敗戦は恥ずべきものじゃないよ。
・ドネアは引退すべき?
>だね。彼はもう何も証明するものはないし。
・悔しくて悔しくて仕方ないはずなのに、転倒した係員にスッと手を差しのべるドネアの人柄。
・この紳士的な振る舞い。普通の敗者がこれほど気高い振る舞いができるだろうか。
・ドネア、ゴロフキンとレジェンドと呼ばれる人は人格的にも優れている。
・井上は正真正銘のP4Pの王者だ これほどのスピードとパワーを併せ持った選手は他にはいないだろう
・この階級ではもはや井上に挑戦する選手がいないという現実が残念だね
・井上は階級を上げる必要があるよ
・井上vsフルトン(WBC&WBO S・バンタム級王者)が見たいぜ