1月15日、恒例の芥川賞と直木賞の受賞作が選出されたが、出版業界では早くも次回の候補者が話題となっているという。お笑い芸人のピース・又吉直樹が書いた中編小説「火花」だ。
芥川賞でも直木賞でもどちらでもありという噂ぶりに、読書好きには出来レースの感がぬぐえず失望されるかもしれない話だ。又吉が書いた「火花」は、発売中の「文學界」2月号(文藝春秋)に掲載されている。
「文學界」はこの号で、82年の史上初増刷がかかったという。
ここのところの又吉は、本の帯や文庫の解説、書評、エッセイ、インタビューなど、文学に造詣が深いお笑い芸人として業界で引っ張りだこだった。
そこへきて、小説を書いたら「傑作」「久しぶりの大型新人作家の登場」などと絶賛されているものだから、文春が芥川賞か直木賞どちらかをとらせるつもりなのかと騒がれているのだ。
では当の小説はどうなのかというと、お笑い芸人が自伝的に小説を書いてみたというよくある作風とは一線を画した出来だという。
賛否ありそうな結末とはいえ、後ろ指を指されるような作品でないことは確かなようだ。ただし、近年まれに見る才能が開花したというような作家の登場でないことも確かな模様。
純文学かぶれの読書好きが自分も真似して書いてみたという域は出ていないようにも感じられ、読者に受け入れられるかどうかは疑わしい。
ところが又吉を盛んに持ち上げる出版界には、又吉に賞を獲らせたい事情があるのだろう。
ごくごく一部の売れる小説とほとんどの売れない小説との差が開くばかりの出版界では、2014年では池井戸潤、和田竜、村上春樹、東野圭吾、西尾維新、百田尚樹などが売上を分け合うお寂しい状態。
増刷などあり得ない現状で、初版の部数も純文学なら5,000部以下や、エンタメでも1万部がやっとだという。
かろうじて話題性で売上を上げられるのが、芥川賞と直木賞の受賞作。そこで、又吉の人気にあやかって賞を獲らせ、売上を獲得しようという目論見に勤しむしかないほど出版界は貧しくなっている。
一方、お笑い芸人としての又吉にとって、芥川賞作家という〈額縁〉ははたしてプラスになるのか、という疑問だ。むしろ、作家としての成功は、芸人ピース又吉を殺すことになるのではないか。
ビートたけしはかつて「お笑いとは絶対につかまらない運動のことである」と語ったことがあるが、あらゆる表現のなかで、お笑いはもっとも速度の速いもの、スピードのあるものだ。
つねに価値観を相対化し、転倒させなくてはいけない上、反射神経も求められる。そして、権威化し、人に気を遣われる存在になると、途端におもしろくなくなってしまう。
小説や映画という別の表現に手を出すと、スタティックになって、お笑い芸人としては終わってしまう。そう、世界的な映画人となった北野武や、天才ともてはやされて今では裸の王様になってしまった松本人志のように。
[引用/参照:http://lite-ra.com/2015/01/post-793.html]