かつて、巨体と毒舌でキワモノのような扱いを受けていた時代が懐かしい。
すでに、「深夜番組で最も面白い」と称賛される『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)と『マツコ&有吉の怒り新党』(テレビ朝日系)、商品を褒めると“マツコ売れ”という現象が起きる『マツコの知らない世界』(TBS系)など、芸能人と一般人の垣根をなくした画期的な『アウト×デラックス』(フジテレビ系)で、MC(司会者)として認識されるようになっていましたが、今年はさらにパワーアップ。
4月には自らロケに出る『夜の巷を徘徊する』(テレビ朝日系)と、マツコ版アンドロイドと共演した『マツコとマツコ』(日本テレビ系)、10月には総合演出を手がける『マツコ会議』(日本テレビ系)がスタートするなど、MCとしての勢いは増す一方です。
マツコ・デラックスさんは、なぜ視聴者と番組スタッフからこれほど求められているのか? ここではそのMCスタイルから魅力を探り、さらに、みなさんの仕事に生かすところまで考えていきます。
コンビ芸人型MCの『怒り新党』
マツコさんと言えば、「思ったことをズバッと言う」「毒舌」「キレる」というイメージを持つ人がいるかもしれませんが、決してそれだけではありません。特にMCとしてテレビ出演しているときは、共演者によってスタイルを変えています。
『マツコ&有吉の怒り新党』は、有吉弘行さんとフラットな関係の“コンビ芸人型MC”。トーク番組に出演したコンビ芸人を思わせるかけ合いで、番組を盛り上げています。
特徴的なのは、どちらかに主導権があるわけではなく、フィフティー・フィフティーであること。「オレがオレが」と前に出ようとせず、意見交換をしながら視聴者に問いかける形式を採る一方、進行は夏目三久さんに任せきりで一切絡みません。
これをほかのシーンにたとえるなら、対談やブレーンストーミング。
「バランスを取ったり空気を読んだりするよりも、遠慮せずに発言して会話を活性化させよう」という点が共通しています。
実際、マツコさんも同番組では、トロトロオムライスを真っ向否定したり、芸能人の整形について熱弁したり、ほかの番組以上に“私見”で盛り上げています。
王道型MCの『アウト×デラックス』
『アウト×デラックス』は、コンビを組む矢部浩之さんの特性に合わせた“王道型MC”。
矢部さんは自らシュートを放つストライカーではなく、相手のシュートを受けるゴールキーパー型の芸人。そのためゲストに話を振り、面白い部分を掘り下げ、大きなリアクションを取るのは、主にマツコさんが行っています。
つまり、マツコさんは純然たる司会者であり、矢部さんは女性アナウンサーのような役割。画面の手前側にマツコさんが、その奥に矢部さんが座っていることからも、マツコさんがメインであることがわかります。
王道型MCでのマツコさんは、段取りを守りながらも、ゲストの話をせかすようなことはしません。「MCとしてゲストの話を真正面から聞き、それを受けて大きく笑ったり、驚いたりする」という昭和の司会者を思わせる堂々とした姿を見せています。
これをほかのシーンにたとえるなら、リーダー中心のミーティング。会社にしても、スポーツのチームにしても、リーダーがメンバーの話をしっかり聞いて、はっきりとしたリアクションを返せれば、マツコさんのように現場を盛り上げることができるでしょう。
記者型MCの『マツコの知らない世界』
『マツコの知らない世界』の見どころは、週替わりのさまざまな専門家から、どうやってディープな話を聞き出すか。それだけに、マツコさんの類いまれなるコミュニケーション力が見られる番組とも言えます。
専門家たちはタレントではありませんが、「自分の名前で仕事する」言わばセミプロのような準タレント。
タレント以上に面白い部分を持っているものの、あくまで一般人だけに、マツコさんは丁寧な言葉づかいで迎え入れて、「芸能人ではなく一般人の代表」という記者のような目線から、質問形式でトークを進めています。
食べ物や家電などがテーマの日は、「どれが何でおすすめなの?」と一般人の気持ちを代弁したり、「本当にいいの?」と疑ってみたり。しかし、専門家との距離が縮まりはじめると、マツコさんのほどよいイジリが炸裂。
基本的にホメながらも、友人同士のような軽口や失礼なことを言って、専門家の魅力や本音を引き出しています。
ちなみに、このような“記者型MC”の代表格は、マツコさんも仲がいい黒柳徹子さん。同番組でのマツコさんは、『徹子の部屋』で見せる黒柳さんのトークと相通じるものがあります。
これをほかのシーンにたとえるなら、同僚や取引先へのヒアリングやインタビュー取材。相手の魅力や本音を引き出すためには、マツコさんのように聞き役に徹したほうがいいのです。
レポーター型MCの『マツコ会議』
最後は、マツコさんが一般人と会話を交わす『マツコ会議』『夜の巷を徘徊する』。両番組でのマツコさんは、MCという“上から目線”ではなく、レポーターのような“下から目線”から一般人に話しかけています。
情報番組でよく見かけるレポーターは、「忙しい中で時間をいただいている」という低い立場。
マツコさんもそれがわかっているから、一般人に対しては「邪魔してごめんね」「こんなこと聞いてもいいのかしら」などと丁寧に話しはじめますし、いい話なら「ステキ!」「スゴイ!」と相手を持ち上げ、調子に乗りすぎた人には「何だよ!」「やめろ!」とツッコミを入れるなど変幻自在です。
すばらしいのは、このような“レポーター型MC”のマツコさんと話した一般人は、「いい人」「面白い人」などのポジティブな印象が残ること。一般人の目線では、トークがどう転んだとしても楽しいし、オイシイのです。
また、同じ一般人でも、スタッフに対しては厳しく接するのがマツコさん流。「コノヤロー!」「ふざけんな!」と罵倒するシーンをよく見かけますが、これは計算づく。番組が盛り上げるポイントや回数を考え、身内を使って毒舌の出し入れをしているのです。
これをほかのシーンにたとえるなら、取引先での営業。低い立場から礼儀正しく接しつつ、相手の話に乗ったり、ツッコミを入れたり、ときに同席させた部下に毒を吐いたりしながら、距離を縮めようとするのと同じなのです。
4つを使い分けるから売れっ子
「コンビ芸人型」「王道型」「記者型」「レポーター型」。これら4つのスタイルを使いこなせるMCは芸能界の中でもマツコさんだけ。
たとえば、明石家さんまさんは、コンビ芸人型やレポーター型をよしとしないでしょうし、爆笑問題の太田光さんも記者型やレポーター型は合わないでしょう。
マツコさんがパートナーやテーマを問わずにMCをこなせるのは、4つのスタイルを使い分ける柔軟性があるからなのです。
ここではそのMC術を「対談やブレーンストーミング」「リーダー中心のミーティング」「同僚や取引先へのヒアリングやインタビュー取材」「取引先での営業」と、みなさんの日常にあてはめてみました。
マツコさんのトークはMCのときに限らず、一般人にも参考になるものが多いです。
売れっ子タレントになってからも、庶民的で慎重な人柄や、本音で向き合う姿勢はまったく変わっていません。
だからこそ自分本位ではなく、パートナーに合わせたMCスタイルを使い分けられるのでしょうし、それこそがビジネスシーンでも大事なことではないか、とも感じるのです。
[引用/参照/全文:http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151208-00095528-toyo-soci]